小説執筆

□有言不実行
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「海行きてぇ、海。」

最近、我が物顔で俺の部屋に入り浸るようになったサイファーが、ソファに座って読書を嗜む俺の隣にさも当然のように座って、そんな唐突なことを言い出した。
現在ガーデンでは設備の点検が行われており、しばらくの間クーラーをつけることが出来ない。
暑い暑いと言いながら此処にいるくらいなら、自分の部屋に戻ればいいのに。
自分から隣に座っておいて文句を言うな。体感温度を上げてるのはアンタだ。

「すぐ其処に海があるのに。しかもこんだけ良い天気でよぉ、聞いてんのかスコール」
「独り言だと思ってた」
「お前この距離でそれは…」

そんな呆れた声を出されても、俺は独り言だと思いたかったのだから仕方ない。
聞き流さずにちゃんと内容を聞いておいたのは優しさだ、優しさ。

「行きたければ行けばいいじゃないか、確かに今日の天気なら海は最高だろうな、よし1人で行ってこい俺は今日は読書をすると決めたんだ。」
「あ?お前が居なきゃ意味ねーんだっつの。アホ。」
「な」

あーぁ、しかし暑いな早く点検済ませろよ業者ァ。とかなんとか言いながら、さり気なく爆弾を落としやがったサイファーは立ち上がって冷蔵庫を勝手に物色し始めた。

「おいサイファー」
「あ?お前もコーヒーで良いだろ?」

違う。そういうことじゃなくて。

-お前が居なきゃ意味ねーんだっつの

「…」

勝手に反芻された言葉のせいで顔が、熱い。
ただでさえ暑いのに。
言った本人は何でもない顔してるって言うのに。
俺は読書をしてるはずなのに。
なんか、腹立つ。

「だから、自分の部屋に戻ればいいのにって言っただろ!」
「初耳ですけど。ほらよ。」

俺のささやかな八つ当たりは華麗にスルーされて、アイスコーヒーを手渡された。
ヒヤリと伝わる冷たさが、このどうしようもない気分をなんとかしてくれる気がした。ガラにもなく。


「お」
「あ」


ちょうどそんなことを考えた瞬間。
電子音がして、冷風が部屋を巡った。

「やっとかよ」
「長かったな」
「これで快適になる」

はぁ、と満足げにため息をついて、やはり俺の隣に座るサイファー。
さっきより近いその距離に、もう俺は諦めて本を閉じた。

結局は大きな流れの一部分をこうやって過ごすだけの話で
こんな気の抜けた会話をしつつ、2人そろってこの部屋で今日を終えるんだろう。

「まるでバカップルだな。」
「間違いねぇ」


*

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