小説執筆
□意識に潜る。
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ザァザァと、砂嵐が鳴る。
「…、」
なんだか息苦しくて、強く深呼吸をした。
世界が一番静かな時間。
砂嵐はザァザァと鳴り続けていて、何故映りもしないテレビをつけているのかわからなくなって、電源を落とした。
「…あ」
そこでふと思い出す。
砂嵐を消しても鳴り続ける、ザァザァという地を叩く音。
「お姉ちゃん、どうして」
小さい頃の記憶。
G.F.に蝕まれてもなお、意識の底に映る映像。
やまない雨の音の中でずっと、帰らない姉を独りで待ち続けていた日々。
「う…っ、」
息苦しさが、増す。
窓もカーテンも閉めて耳を塞いで、それでもその向こうからこちらへ、その音は這い寄ってくる。
ザァザァ、ザァザァと。
「…どうして」
雨の日は、当然のことが辛くなる。
部屋で1人で過ごすことなんて、いつものことなのに。
この音のせいで、それが悲しいとか、寂しいとか、そんなことを感じてしまう。
「1人で何でもできるように、強くなるって、決めたのに」
強くなれば、雨の音も、きっと恐くなくなるのに。
「…どうして」
今も、あの頃のことを思い出すんだろう。
身動きがとれなくなるんだろう。
――――ピリリリッ
「!」
突然鳴り響く電子音。雨音と自分の呼吸以外の音。
誰かからの着信を告げる携帯を、のろのろと手に取る。
着信相手は、
「…っ」
今、自分が無意識に待っている人。
幼い頃、どれだけ待っても帰ってこなかった姉。
拠り所を無くした自分は、一人でも平気になろうと、強くなろうと決めたはずなのに。
それなのに、画面に表示された名前を見ただけで、息苦しさが消える。
その名前だけで、この音がただの雨音になる。
「サイファー…」
あんたのせいで、俺は強くなれない。
だから、責任をもって今すぐ此処に帰ってこい、馬鹿。
(今度は、信じることの強さを知った。)
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