小説執筆
□声も感情も
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「クラースさん」
呼ぶ、というほど意味はないけれど、視界に入れば口にしてしまう名前。
「ん?」
きっと、クラースさんは呼ばれたと思っているだろうけど。
ふいに口にしただけのそれを聞き取って、何だ?と構ってくれる事が嬉しいなんて。
「買い出し、行こうかなと思って。なにか要りますか?お酒以外で」
「未成年に頼むわけ無いだろう、酒なんて」
無理やり用事を作って会話を続けるのは、もう数え切れないほど。
それくらい無意識に、僕は求める。
「しかしクレスは本当にしっかりしてるな。」
「そうですかね?」
ミントもですよ、と言えば、確かに。と返された。
自分で言っておいて、その返事に嫉妬した。
「クラースさん」
「なんだ?」
僕があの人を呼ぶ習慣は続く。
惹かれる心が、手に入れたい欲に変わる。
それを重ねて湧いてくるこの感情は、恋心なんて綺麗なものじゃなくて。
「クラースさん」
もっと黒い底にある、劣情だということには気付いている。
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