小説執筆

□同じように射止めることが出来たなら
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狙った獲物は逃がしたことがない。
特訓用の的もモンスターも、形があるものは全て。

しかし形のないものは狙おうにもどうしたらいいかわからない。
特に、「人の心」なんてものは。

「目に見えたら楽なのに。」
「なに?」
「なに、か。それすら難しいな」

そもそも「人の心」とはどこまでも曖昧なものだ。
心とは何だ。
心と気持ちは違うのだろうか。
違うというなら何が違うのか。
または同じなのか。
同じなら何故呼び名が違うのか。

「俺みたいな一般人には、到底及ばない領域だよな」
「珍しく頭を使ってるらしいが、どうした」
「褒めてんのか?嫌味か?」

珍しく。
そうだな、珍しい。
でもこれは頭を使ってるんじゃない。

「悩んでるんだ」
「へぇ。明日は雨か…出発を遅らせるか」
「俺はいつだって悩める子羊だよ」
「ハッ」
「鼻で笑うな」

くそ。誰のせいだ。
いや、誰のせいでもない。
俺を悩ませてる目の前の原因は、ついさっき俺が悩んでいると知ったんだから。

「旦那って頭良いんだろ?」
「まぁな」
「なんか嘘くさい」
「本の角の威力を身をもって知りたいか」

そんなこと知りたくないのでとりあえず謝っておいた。
俺が今知りたいのはどうやったら悩みが解決するか、それだけだ。

「なぁ旦那」
「なんだよ」
「よく心を射止めるって言うけどさ。どうやったら良いんだ?」
「恋の悩み相談はミントにしとけ。…ミントが相手なのか?」
「ちがう」

なんて察する力のない大人だ。なんて言ったら本の角が降ってきそうだな。

「あーあ…」
「意外に深刻そうだな」
「抱きしめたいし、キスしたいし、抱きたいんだよ。」
「そういうのは本人に言え」
「今言った」

「………ん?」

言葉の意味を汲みかねているのか、眉間に皺が寄ってる。
そう、そういう事だよ。

「ははは。固まってやんのー」
「お前…」
「あーあ」


「旦那の心が目に見えたらいいのに。」


そうしたら、射止めてやるのに。




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