小説執筆

□その理解し尽くしたと言わんばかりの言動が
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「良かったわね、スコール」
「なにが?」

相変わらず書類の処理に追われる指揮官室での生活に辟易していたある日。
キスティがコーヒーをデスクに置くついでにそんなことを言ってきた。

「その感じだとまた、用意してないんでしょ?」
「何の話だ」
「ふふ、気にしないで。今日は残業はやめて、定時であがっていいから」
「……」

何か含みのある言い方だな。
人並み以上に整った顔を何故か幸せそうに綻ばせて、彼女は隣の部屋へと戻っていった。

「……こんなに仕事が積まれてるのに」

コーヒーを飲むついでに呟けば、わかっていたはずの事実をさらに突きつけられた気がして少し苛立った。



シュン、と音を立てて自室のドアが開く。
定時は少し過ぎているが書類は処理仕切れず、それに明日の分の仕事が増えると思うとやるせない。
キッチンで本日2杯目のコーヒーを淹れる。
キスティは俺の胃を考えてミルクを入れるが、自分で淹れる分にはブラックだ。
苦味に何となく安堵して、ふとカレンダーを見やる。

「あ」

そして今日の日付に気付いた。
…気付いてしまった。

「……バレンタインか…」

カレンダーを見なければ知らなかったで済ませれたかもしれない。
いや、そういえば指揮官室にいろんな包みがダンボールで届いていたな。
全てゼルやセルフィによって形は消えていたが。

「…なるほど。本当に良かった。」

そしてこのバレンタインという日、俺にチョコレートを強請るなんてバカなことをしそうなロマンチストは。

「明日まで任務か」

バラムにはいない。

「(今日はもう店は閉まってるし…材料もないしな…)」

そこで渡してやる前提で考える俺もお人好しというか。
…渡さなければきっとうるさい。そう、うるさいから用意するんだ。

「明日の朝にでも買いに行くか…」
「明日じゃ意味ねーだろバカ」
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