Short Story

□恋しい≠乞しい
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見慣れたボンゴレ本部の大ホールは絢爛豪華なパーティー会場へと姿を変貌し、賑やかさと煌めきが五感を刺激する。


本当ならこんな所来たくはなかった。


10年前、この世界に入ればあの人との距離は縮まると思ってた。
別に後悔はしてないけど、距離は縮まらなかった。

当たり前だけどイタリアと日本が近くなることはなくて、今だって、近いのに遠く感じる。



「雲雀ー、こんなとこで何やってんだよー?」
「うるさいよ、酔っ払い。」

うひゃひゃ、なんて間抜けな笑い声と共に後ろから回された手を払った。
振り向くと不満げな表情を視界に捉えた。

「…ねぇ、君一人なの?」
「んだよー、一人で悪ぃか」
「いや、ほら…君の連れがいないから。」

獄寺が眉間の皺を深く刻んで指差す先には慕って止まない彼の人が女を口説く真っ最中だった。

「君も大変だね」
「…お前だって人の事言えねぇだろ?」
「君とは状況が違うよ」
確かにむかつくけどね。

香水臭い女どもに囲まれて苦笑する蜂蜜色、良い具合に酒が入って陶然しているのは明らかだった。

「んなこと言ってっけど気になるんだろー?プレゼントも渡さねぇとなー」

破顔して犬みたいに纏わり付いてくる獄寺にため息を吐いて髪を撫でた。

「んだよー、ガキ扱いすんな」
「違うよ、ペット扱い。」

嫌なら離れれば良いのに、大概構って欲しがりなんだ。

「さて、僕はそろそろ駄犬を回収しに行くよ」
「おー。行ってこい」
「五日後、しっかり捕まえときなよ?」

くしゃ、と銀糸を撫でて忠告した。


目的の蜂蜜色に少し近付いただけでツン、と鼻に付く香水の匂い。
よくこんな匂いに堪えられるな、と手で口を覆って足を進めた。

「お、恭弥じゃねーか。どうした?」
「…別に。それとも用がなきゃ話しかけちゃいけない?」

女共を縫うように避けて金髪の隣に並んだ。
群がりの真ん中に来ると先程よりも明確に、鼻孔を刺激する強烈な香水はもはや、他人の気分を害するだけのもの。

「いつまで此処に居るつもり?」
「恭弥帰りたいなら帰るぜ?」
「一々むかつく人だね、貴方が帰らないなら一人で帰るよ」


素早く唾を返して去り際に吐いた言葉は魔法の言葉。


こう言えば、この人は絶対僕と一緒に来るから。
断定できるのは、10年来ずっとそうだったから。

「帰る。恭弥の部屋なー。」

締まりの無い笑顔で派手な化粧の女達を宥めながら着いてくる様はさながら犬の様。


自然と少し高いその頭に手が伸びるのは先刻銀の毛並みの犬を撫でたから。


「ねぇ、誕生日おめでとう。」


ずっとポケットに入れていた紺色の小さな箱。

「サンキュ。開けて良い?」
「あげたんだからもう貴方の物でしょ?」

大好きな骨張った指が群青色のリボンを解く。

箱の中身はオートマチックの時計。


「オートマ…か、もちろん意味知ってんだよな?」

嬉しそうな、幸せそうなその表情が僕の心臓の動きを早くする。


「…秘密。知らないかもね」

挑発するように、口端を上げて琥珀の彼を見た。

「何だよ、教えてくれたって良いじゃねーか」
「部屋に行ったら、ね」

子供みたいに拗ねるこの人の服を掴んで早足で歩く。
ただ、早く部屋に行きたかった。


この人の誕生日を祝うのは、1番最初に生誕を感謝するのは、僕だけで良いと子供じみた独占欲に苛まれる。



明日はオフだから。

きっとずっと、


貴方を独占してあげるよ。



Fin.
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