Short Story

□弔愛
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小さな部屋の小さな窓から窓枠に切り取られた大空を仰ぎ見た。


空を燃やすように傾きながらも輝きを放っていた太陽もいつしか沈んで、夜の帷が降りた頃、漆黒の布にぽっかりと穴を開けたみたいに浮かぶ銀の月


銀色は嫌い。

――嫌でも君を思い出すから



あの頃は、獄寺が居た頃は1番好きな色だった。


獄寺が死んでから今日でちょうど一年。
あの頃、最強の名を欲しいままにしてきた僕はこのたった一年で見る陰もないほどに落ちぶれた。

最後に外出したのは一年前。
君のお通夜とお葬式の時だった。
…だって君に会うことも叶わないというのに外出する理由も、その必要も、無いだろ?


最後に何かを食べたのはいつだったかな?
君と向かい合ってたわいない会話をしながら食べないと、なにもかもが味気無い。
食べたところでどうせ吐いてしまうだけだったしね。


ねぇ、僕はこんなにも弱かったかな?
君は強くない僕であっても愛してくれる?



白く細った腕を月明かりに照らしてみた。

浮かび上がるケルロイド。
幾度となく繰り返した自傷行為と自殺未遂。

今生きている…否、生かされているのはボンゴレ直属医療班の技術の賜物。
…でも、それも今日でおわり。



忍ばせておいた果物ナイフを何度も何度も青白い骨張った腕に滑らせる。
とうに痛覚は麻痺しているから痛くなんか、ない。ただ腕を裂く金属の感触に酔いしれた。
滴る鮮血と徐々にぼんやりしてくる脳内が、君の元に逝けるという喜びを実感させた。


「ねぇ獄寺?もうすぐそっちに…君の居る所に逝くよ」


誘うように妖しく光を放つ銀の月を
真っ赤な水溜まりを作る鮮血を

ぼんやり眺めて呟いた


早く、早く、逸る気持ちが自然と痩せた胸へとナイフを持った手を誘う

これまでとは比にならない程の痛みと、何倍もの量の出血。

それが、酷く嬉しい。

もう少し、あと少しで君の元に逝けるから

だから待っていて…そして、君のキスで出迎えて。


ねぇ、会えなかった一年、本当はすごく寂しかったんだよ?



早く、早く君の所へ…君の隣へ…腕の中へ…
アイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテル



これからは、ずっと一緒だよ?


それは酷く美しい、気高く光り輝く満月のみが知る真実



fin.
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