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□はち
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穏やかな昼下がり、恐怖の象徴であり、理不尽な秩序を振りかざす部下は出張中。
そんなわけだから10年間変わらずに忠義を尽くし続けている親愛なる右腕を久しぶりに満喫している。



「10代目、コーヒー入りましたよ。」

「ありがとう、獄寺君。そこに置いておいてくれる?」


はい、と満面の笑みで二つ返事をくれる。
指差した通りの場所にきっちりとソーサーとコーヒーカップを並べる様を見て自然に頬が綻ぶ。


「ねえ獄寺君、もしもさ…」

「はい、何ですか?」

「もしも、雲雀さんが任務で死んだらどうする?」


一瞬面食らったように端正な顔を歪めた獄寺君が苦しそうに哀しそうに、それでも綺麗に微笑った。


「殉職なら、本望ですよ」


病で倒れ、苦しんで死ぬよりずっといいでしょう?と柔らかく言った。


「…その任務が、俺に仕組まれていたとしても?」


そんな事しないけれど、彼が俺と雲雀さんのどちらを選ぶのか少し気になった。


「そうですね、もしそんな事があるなら…」


俺が貴方に乖違する最初で最期だと思って下さって結構ですよ?


そう言った俺の忠実な右腕は恐ろしい程に美しい冷たい微笑を浮かべていた。


「俺より雲雀さんの方が大切?」

「いいえ、大切なのは10代目ですよ。」

「それでも君は俺に背くんでしょ?」

「そうですね、彼奴は俺の中で当たり前の存在ですから。」


恭弥の居ない世界じゃ俺は生きられませんよ、なんて…軽薄な笑みを称えて忠順な部下はさらりと言った。



「10年前なら、違っただろうね」

「そうですね、あの頃俺の全ては貴方で形成されていましたから。」



あの頃の俺はガキで、厚かましくも獄寺君の1番は永遠に自分だと驕っていた。

それでもいつかは誰かに掠われるのがわかっていた。
慕われているのを良い事にいつまでも胡座をかいて居られないと理解していた。



「今でも、俺には貴方が1番ですよ?」

「主君としては、でしょ?」

「それも当然ですが…厚かましくも友人としても、です」


目を伏せてはにかんだように素直な笑顔を見せる君だから、浮雲のような彼を捕まえて巻き込めるんだと思った。


「ねぇ、雲雀さんもうすぐ帰って来るんじゃない?帰国、今日だったでしょ?」

「はい、多分もうすぐなんで失礼ですが到着次第少しお暇させていただきますね」


俺の部下は肆然な黒い人。
肆然なのに銀色の嵐に巻き込まれる雲。

俺の右腕は忠義な銀色。
忠義なのに黒い雲に夢中になった嵐。


頼れる部下と頼もしい右腕は
互いの依り処を知って
優しさに触れる事を知った。



暖かな日だまりの中、彼の人が帰還するその時まで。
あの頃同然、かわいい君は俺のモノ。




Fin.

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