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□ろく
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睡魔に身を任せてまどろみをたゆたう意識の底方のその先で

美しい、細い指先を俺の髪に潜り込ませて
愛しい恋しい貴女は微笑っていた。



「朝だよ、起きな」

遠い彼方から聞こえてくるみたいな声は大好きな彼のもの。
貴女とは違うけど、貴女と同じくらい俺を思ってくれる人。


「…無理。眠ぃ」


いつもいつも、この人を困らせる事ばかりしてる。

そうして甘やかされると、愛されていると自覚できるから。


「…じゃあ朝食できたら起こすから。」


唾を返したその背が、もう戻って来ないような焦燥に駆られて咄嗟に掴んだ糊の効いたシャツはとうくに着替えが終わっている事を示していて。

くん、と引っ張られた生地が固かった。


「…どうしたの、」


張った生地が緩んだ刹那、頭部に感じたのは気を抜くと再び寝入ってしまいそうな程の優しくて暖かい男の手。


「んー…」


特に何かあった訳じゃないから、まさか消えてしまいそうだったなんて言えない。
言うべき言葉も見つからなくて、取り敢えず強く強く、皺一つ無いシャツを引っ張った。


「どうしたの、」


意味など無いのだから、どうしたと問われても困るんだ。


「…その、時間、まだあんだろ?」


俺の精一杯、必死のシグナル。

あの人はもちろん、わかってくれたんだ。
そうしてごめんなさい、と哀しく微笑んだ。


「うん、此処に居てあげる」


そうして包み込まれた温かさは、あの女性と同じだけど全然違った。




彼の人はもう居ないけど

いつでも

何度でも

永続的に


彼の人と同じ温かさと愛情で包んでくれるこの男に縋るんだ。




fin.

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