幕末長編小説 時を越えた自衛官

□幕末
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「いってててて、何だ?」





鉄蔵は頭を振りながら立ち上がった。





「ふー、おい真吾郎無事か?」





しかし返事がない。いつもはすぐに「はい、鉄蔵二尉!!」と返事が返ってくるのに。





「真吾郎!!おい、真吾郎!!」





いくら呼んでも返事がない。不安だ。こんな不安は空挺レンジャーの教練を受けてたころ飛行機からの空中降下並みの不安、いやそれ以上だ。あいつがこれ以上に支えになっていたとは・・・。





「・・・あいつのことだ多分大丈夫だろう」





鉄蔵はともかく装備を確認した。装備は異常なし・・・と。しかしあたりを見回しなにか違和感があった。





「!!道路がない・・・!!」





さっきまでコンクリで出来ていた道は土で出来ていた。さっきまで鼻についていた排気ガス独特な臭いも無い。





「どうなってんだ?」





ただでさえ頭が弱い(余計なお世話だ!!)鉄蔵は混乱した。そして「うーん」とうなっているとき





「なんだお前?」





「は・・・?」





呼ばれて後ろを振り向くと・・・鉄蔵は言葉を無くした。そこにいたのは男だった。普通の男ならどうともない、しかし目の前にいる男の姿はありえなかった。着物に袴、一見剣道かなんかの稽古に向かうかのような格好だった。そっちのほうがましだと思った。なにせこいつは腰に刀を差している上に・・・頭の上に髪の毛の束・・・ちょんまげが乗っていた。





「あー、もしかしてなんかの撮影?」





「・・・?なにをいっているんだ貴様・・・頭でも打ったか?」





男は不審がって鉄蔵を見た。そしてやがて鉄蔵の手に持っている小銃を見るなりへんな笑みを見せた。





「お前・・・それは鉄砲か?」





「あ・・・?コレのことか?」





鉄蔵は小銃を見せていった。男は「そうだ」と言って、手を出すなり





「俺によこせ」





「・・・は?」





こいついきなりなに言ってんだ?そう思いながら鉄蔵は頭を抱え





「お前馬鹿か?」





「なに!?」





男は目を怒らせ、腰の刀に手を当てた。が、鉄蔵は動揺しない。そのまま話しを続けた。





「今のご時勢無許可で銃を持つと銃刀法違反で捕まるぞ?他にだって自衛隊の装備を無断で取るのも違法だし・・・今でさえ捕まりそうな格好なのに・・・馬鹿はさっさと帰って寝ろ」





「なに!?貴様ぁ、もう許さん!!おとなしく鉄砲を渡せばよいものを、叩っ斬ってくれるわ!!」





男は遂に刀を引き抜き構えた。鉄蔵は半場距離を取って、身構えた。





「死ねぇ!!」





男は刀を振りかぶり真っ向唐竹割り(敵の脳天目掛けて刀を振り落とすこと)にするがごとく突っ込んできた。鉄蔵は多少身体を横にかわしてやり過ごした。しかしその刀身を見て鉄蔵は目を見張った。





(!!本身!!)





鉄蔵は見てわかった。鉄蔵自身もそうだが父親が無類の刀好きで数多くの刀を見ていた。そして我流だが据物斬りもやっている。鉄蔵は冷や汗が出てきながらも心の中で、「銃刀法違反だ!!」と叫んでたが声にならない。しかし恐怖心がない。





(とにかく逃げる!!)





鉄蔵は踵を返し逃げようとした。が、





「逃げるな!!卑怯者!!」





ピタッ





鉄蔵はとまった。男は不審がって止まった。鉄蔵は男に振り向いた・・・額に血管を浮かびあげながら。





「上等だ、ゴラァ!!かかってこいや!!」





鉄蔵は『卑怯』と呼ばれるのが大嫌いだった。鉄蔵のモットーは『背水の陣』だ。常にそれぐらいの覚悟がないと国を守っていけないと思ってるからだ。そして小銃を構え、銃剣格闘の準備をした。
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