幕末長編小説 時を越えた自衛官
□タイムスリップ
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―2020年―京都駐屯地―
「あー、やっぱ京都はいいな」
一人の男が、背伸びしながら言った。
「ハハハ、鉄蔵二尉さっきからそればっかどすなぁ」
普通、上官を呼ぶときは苗字に階級を付けるのが普通だが、本人は名前で呼ぶようにさせている。
「ふむ、なによりこの古都なんて今滅多にないからな」
この男、河月鉄蔵。千葉のほうから遠征訓練に来た男だ。歳は28、しかし老けているせいで三十後半に見える。近眼なのか眼鏡を掛けている。頭が悪く喧嘩っ早いのは傷だが、戦闘術に関してはずば抜けだ。特に短剣格闘、銃剣格闘に関しては右に出るものはいない。
「そういえば、明日でしたよね。想定訓練」
部下がいった言葉に「あ、そうだっけ?」と声にだすと部下に呆れられるので言わない。
「そうだったな」
まぁ、別に全部忘れていたわけじゃない。今回の訓練は十文字山に隠れた武装テロを制圧するとのことだ。
「ま、お前がどこまで腕を上げたか見ものだな。もし腕が落ちてたら、樹海に捨てる」
「えぇー!!そらないわ!!鉄蔵はん!!」
あ、忘れてた。こいつの名前は山田真吾郎(しんごろう)。俺が京都に来て渡された部隊の隊員。人懐っこく周りからは『真ちゃん』と呼ばれている。鉄蔵は特にこいつをかわいがっている。
「ほー、勤務中に上官を呼び捨てとはいい度胸だ。罰則を受ける気満々だな」
「す、っすすすすすす、すみまへん!!堪忍どす!!」
真吾郎は思いっきり頭を下げながら謝ってきた。それをみて鉄蔵は思いっきり吹き出してしまった。
「ハハハ、冗談だよ。冗談」
「ほ、ほんまどすか?」
「そんなに罰則受けたいのか?」
「いやどす!!」
真吾郎は首を思いっきり横に振った。
「ま、いいや。明日のためにも早く寝とけ。はしゃいで寝れませんとか言うなよ」
「子供じゃありまへん!!」
ハハハ、とまた鉄蔵が笑いながら歩いていった。