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□2本目の傘
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雨、か。どうしようかな。傘なんて持ってないよ。

眼前には、つい10分前まで青色を呈していた空から落ちる、無数の棒のような雨。私は学校からの帰り道に通り雨(だと思いたい!)に遭ってしまい、ただいま木陰で絶賛雨宿り中なのです。
明日は授業でピアノの発表をするから早く帰ろう、と思った矢先にこれだ。最近見つけた家への新しい近道として公園を通り抜ける最中、突然の大雨に降られてしまったのだ。

木陰で待ってみるが、依然として雨足は強いままだ。だんだん木の葉の隙間からも、雫が染み出してきた。小春日和を呈していた空も、雲に遮られ冬色に逆戻りだ。体温を奪う風も吹き出した。
「うう、寒っっ」
つ、と葉の先から伝った雫がセーラー服の襟から入った。
鞄に入っていた下敷きを頭の上に水平に掲げ、雨粒を凌いでみようとしたが、いかんせんB5の大きさである。肩まで隠れるわけはなかった。家まではここから約10分。自分ひとり手ぶらなら、走って帰ったっていくらか濡れる程度で済む。すぐにシャワーを浴びれば風邪をひくこともないはず。けれども学生鞄の中の楽譜を思うと、それは実行に移せない考えだった。


この間観た映画ではこんなとき、
「よかったら入っていきます?」
だなんてカッコいい男の人が声をかけてくれる。

昔読んだ漫画なら、
「何やってんだよ。傘ねぇの?」
なんて、気になってたクラスメイトが声をかけてくれる、のにな。


のにな。
いつまで待っても雨はやまなくて、時計を見たら学校を出てから40分も経っていた。立っているのにも疲れ、しゃがみこむ。短くしているスカートの裾が地面に擦れることはなかったが、雨粒で跳ねた泥が服を汚した。頭を膝に埋めても、耳についた雨音は離れない。
ひとりでいるのが辛くなって、少ししゃくりあげた。



ー、ーー。
ーーー、−−。


お気に入りの歌を歌った。明日の授業で演奏する、切ない恋の歌。小さい鼻声は雨にかき消されていくようで、寂しさが更に増しただけだ

った。それでも、歌った。


ーー。
ーーーーーーー。

ーーー
「リン。帰ろ」

声に驚いて顔を上げると、黒い学生服が、折り畳み傘を差しだしていた。涙に滲んでいても、雨に滲んでいても見まごうことのない黒服と

金髪のコントラスト。この人は、

「レン!?どし、て?」
「リン、昼休みに傘忘れたーって言ってたろ。どっかで降られてるんじゃないかと思って」
公園の前通りかかったら歌が聴こえてさ、なんてレンはニカっと歯を出した。

「ふ、ふぇ。ふぇーん。ぅえぁー」
レンの笑顔を見たら気が抜けて、さっきまで塞き止めていた何かが崩れて、涙とか、鼻水とか、嗚咽とかが洪水してしまった。さびしかった、ずっと止まないかと思った、死ぬかと思った、だとか諸々支離滅裂なことを立て続けに言ったのだけれど、レンは困ったように笑って頭を撫で続けてくれた。




柔らかい黄色を基調とした折り畳み傘を受け取り、几帳面に畳まれていたそれを広げて雨にかざした。青と黄色の傘が並んで咲く。
「ありがと」
「うん。ついでだから、送ってく」
「ほんとごめん。泣くし。申し訳ない」
「別に。ありがとうって言ってもらえたらそれでいいし」
「ありがとう。」

二人で歩くと、さっきまで凍えていたのも気にならなくなった。泣いて興奮したからかもしれない。歩いて身体が温まったからかもしれない。レンが、物語のヒーローみたいに助けに来てくれたからかもしれなかった。




「そいえばさ、なんで折り畳み、2本も持ってるの?」
「た、たまたま」
「男子なのに黄色持ってるとか珍しいよね?」
「た、またま。たまたま」


(雨すら君に触れさせたくない、)








おまけ

レンと友達くんの会話
『やっべ、雨じゃん』
「だねー」
鞄から折り畳み傘を取り出すレン。
『おーいレン、どぉせお前傘2本持ってんだろ?貸せ!』
「ム・リ」
『なんでだよ?あ、リンちゃんも傘無いのか』
「そゆこと」
野郎と相合い傘なんてごめんだし、と言ってレンは1人で歩き出した。

『好きな子とは相合い傘の方が楽しい気がするけどなぁ』



■あとがき
レンは通りかかったようなことを言ってますが、リンを探すのに相当苦労してます(笑
リンは最近見つけたばかりの近道を通っていたから。

学校で上履きがないのを確認→外に出たら雨が降り出した→(リンが困ってるに違いない!探そう)→リンの家まで走るが、見当たらない。家にもいない→寄り道かと思って片っ端から近くの店回る→公園を通りかかる

40分も探し回るとか、ばかだなぁ(褒めてる)。愛だなぁ。
あと、レンが学ランを着ていたのは、雨が強くなる予報だから持ってきてた、から。用意周到っ子です。
補足多すぎ(笑

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