月光譚 ―gekkoutan―
□六、陽炎
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もうだいぶ長い時間歩いてきたので、全身がしっとりと汗ばんでいる。
それなのに勝元は、城門を出てからずっと押し黙ったまま、ひたすら歩き続けている。時折うしろを振り返って、冬仁がついて来るのを確かめる。ただそれだけだった。
そしてやっと目的の場所にたどり着くと、ふと立ち止まり、冬仁のほうを振り向いた。
「さすがに、すすきの穂は生えていないね」
そんなことを言う。
冬仁が黙っていると、
「あそこの樹の下まで行こう。炎天下にいると、あなたの体にさわる」
冬仁の手を取った。
そして、ふたり揃って木陰に腰を下ろすと、
「いったいどうしたのです?」
冬仁は、やっと勝元に尋ねた。
勝元はやさしげに笑うと、まだ握ったままだった冬仁の白い手を、そっと、しかし強く握り締めた。
「勝元殿?」
不審そうに勝元の顔を見る。
勝元は相変わらずおだやかにほほ笑んだまま、じっと冬仁を見つめている。光の加減なのか、勝元の薄茶色の瞳がかすかに金色を帯びて見える。
「ひさしぶりに、ここで、あなたと話がしたかった」
「……」
冬仁は首をかしげた。
今日の勝元は、いつもの勝元らしくない。なんだか曖昧で、それなのに強引だ。何を考えているのか、さっぱり見当がつかない。
「勝元殿らしくありませんね、こんな……」
冬仁が言いよどむと、
「こんな勝手な真似を?」
苦笑しながら訊いてくる。
そして、握っていた手をそっと離した。そのまま目の前に広がる野原を眺める。
冬仁もそれに習って、視線を前方へと向けた。
むせ返るような暑さに、草たちはしんなりと頭を垂れている。そよ風さえも熱気をはらんで、ただ暑さを増していくだけだった。
時折蜜蜂の羽音がする以外は、あたりはしんと静まり返っている。
勝元も冬仁も黙っている。お互い何も話そうとはしない。
「……」
「……」