月光譚 ―gekkoutan―

□九、追想
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 「……」
 勝元は、そこで一旦言葉を切った。
 比日喜は、長い間ずっと黙って勝元の話に耳を傾けていたが、勝元が一息ついたのを見て、つられるように深いため息を吐き出した。
 「では、冬仁がなぜそんなに男であることにこだわったのか、その理由は勝元様も知らないのですね」
 「ああ」
 勝元は素直に頷いた。
 勝元とてすべてを知っているわけではない。むしろ分からないことのほうが多い。
 「冬仁の出自は、今も分からないままなのですか?」
 比日喜が問うと、勝元は懐から何かを取り出して比日喜の前に並べた。
 「これが、そのとき冬仁が持っていた首飾りと宝剣だ」
 比日喜はそれを手にとってしげしげと眺めると、感嘆のため息をもらした。
 「ずいぶん見事な品ですね」
 「ああ」
 勝元は心得顔で頷く。
 「それもそのはず、これらの品はデーヴァ王家に伝わるものなのだ」
 「デーヴァ王家?」
 驚く比日喜に、勝元は自分が調べたことを話した。数か月前にすすきの原で冬仁に言ったのと同じことを、そっくり比日喜にも語って聞かせる。
 そして、そのときに冬仁が提案した偽の葬儀の計画も話す。
 比日喜は時々呆れたように顔をしかめながら、それでも最後まで黙って聞いていた。

 「おそらくデーヴァと無関係ではあるまいと思っていましたが、まさか王家――よりによって王位継承者だったなんて。とても信じられません。デーヴァ王家の名など、書物の中でしか見たことも聞いたこともないんですから……」
 比日喜は、困惑したように言った。
 それからしみじみと冬仁の寝顔を見つめながら、
 「それに、まさかそんな馬鹿げた計画を立てていたとは、まったく呆れてものも言えない」
 憤慨する比日喜に、勝元は心底申し訳なさそうに頭を下げる。
 「すまない」
 「本当ですよ、まったく」
 比日喜は軽く勝元を睨み、大げさにため息をついた。

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