月光譚 ―gekkoutan―
□七、蜜月
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八月吉日。晴天。
勝元と遠智姫の婚礼の儀は、たいへん盛大に執り行われた。
陽成帝にとって、愛娘の晴れ姿を目にするのは初めてのことなので、その喜びようは深くたとえようもないくらいだった。
また、それに呼応するかのように、近隣諸国からさまざまな祝いの品が山のように届けられ、国内外はもちろんのこと、海を隔てた遠方からもたくさんの人々が祝宴に駆けつけ、若い夫婦の門出を惜しみなく祝った。
遠智姫を迎える東家でも準備は万端に整えられ、月翅城(げっしじょう)を訪れた人たちは、初めての人もそうでない人も、そのいつにも増しての美しさ華やかさに感嘆の声をあげた。
誰もが祝福し、誰もが祝いの美酒に酔いしれた。
結局、五日間の予定だった祝宴は、帝都で五日、東家で五日と、合わせて十日間にも及ぶ長いものになってしまった。
その間は、残りの四人の姫君たちも、帝都と月翅城を行ったり来たりして、気ままに楽しむことが出来るのだった。
しかし世の常として、人が集まるところには必ず噂話も花が咲く。
「いや、それにしても豪華な婚礼でしたなぁ」
「お二人とも、まさにお似合いの夫婦ですな」
口々に称賛する。
「陽成帝は、さらに壱岐姫と南様の婚約を望んでおられるそうだ」
誰かが言うと、
「そうそう、南様には既に帝から内々にお話があったとか」
うなずく者もある一方で、
「いや、南様はその話を断ったそうではないか」
否定する者もいる。
「なんだと。それは本当の話かね?」
「おかしいな。私が聞いた話では、南様もこの件にはたいそう乗り気だということだったが」
「いやいや、そうではないよ」
「ええ、私も知っていますわ。大きな声じゃ言えませんけれど……」
なにぶん話題の主が、権勢を誇る現南家当主と畏れ多くも今上帝の姫君なので、おおっぴらに語られることはないが、いろいろな話がまことしやかにひそひそとあちらこちらで交わされているのだった。
真偽まぜこぜになって、次々に人々の口の端へとのぼる。