月光譚 ―gekkoutan―
□六、陽炎
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勝元の後ろを歩きながら、冬仁は考え事をしていた。
ふたりきりで出かけるのは、ずいぶん久しぶりのことだった。勝元が将軍職についてからはほとんど無い。勝元が城外へ出るようなときは、必ず供の者をつけることになっている。
しかし今日は、何もかもが特別だった。
早朝、勝元のほうから冬仁の住まいを訪れ、今日はふたりきりで城外を散策しようと言い出したのだ。しかも行く先は、あのすすきの原だという。
十二年前、冬仁と勝元がはじめて出会った場所である。
何かある。
そう感じるには十分だった。
本来ならば賛成するべきことではない。普段の冬仁ならばきっと止めていたことだろう。
いや、そもそも、自分の立場をよくわきまえている勝元が、軽々しくそんな提案をするはずはなかった。
だが今日の勝元は有無を言わさない雰囲気があった。
勝元の突然の訪問に驚いている冬仁に、いきなり自分についてくるように言ったのだ。
なぜとかどこへとか、問う暇もなかったくらいだ。
(いったいどうしたというのだろう?)
勝元の背中を見つめながら、冬仁は考えていた。
思い当たるふしは何もない。
黙って勝元の後に続きながら、冬仁はまぶしそうに空を見上げた。
今日も暑くなりそうだ。
ついこの間、ふた月遅れの桜が咲いたと思っていたら、今度は連日真夏のような暑い日が続いている。
本当に今年は異常気象もいいところだ。
異様に長い冬のあと、やっと春が訪れたと思っていたら、あっという間に駆け足で過ぎ去り、初夏のさわやかな陽気を飛び越して、さっさと夏になってしまったようだ。
樹や草花もその変化について行けず、春の花と夏の花がごちゃまぜになって、ひょろひょろとして丈ばかりが長いひよわな茎を伸ばしている。
まだ朝の時間帯だというのに、地面からゆらゆらと陽炎が立ちのぼる。