月光譚 ―gekkoutan―

□五、桜花
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 満開の桜の下、それはおごそかに始まった。
 異国風の色とりどりの鮮やかな衣装。どこか哀愁の漂う不思議な音色を奏でる楽器。
 神秘的で美しい女たちの舞に、見たこともない鳥たちの乱舞。
 そうして、いよいよ金那羅の剣舞が始まる。
 広い舞台の中央に、両手に長剣を持った金那羅がひとり立つ。
 静かに胡弓が奏でられ、その旋律にあわせてゆっくりと静かに舞い始める。流れるようなゆったりとした動き。
 と、突如として銅鑼の音が鳴り響き、金那羅の舞が急に激しくなる。二本の長剣がものすごい速さで動き虹色の輝きを放つ。
 桜の花びらが、まるでそれ自体が意思を持っているように、ひらひらと金那羅の周りを舞い踊り漂う。
 金那羅と剣、桜と音楽が一体となって、見る者を夢の世界へと誘う。

 いったいどれほどの時間が流れたのだろう。
 それともあれはほんの短い間の出来事だったのか。
 続けざまに銅鑼が大きく打ち鳴らされると、金那羅の動きがピタリと止まった。途端に音楽も止み、桜の花びらは意思をなくしはらはらとこぼれ落ちた。
 それと同時に止まっていた時間が動き出す。
 長い夢から醒めたように、人々は心地よい陶酔感にひたっていた。

 「どうだ、素晴らしい舞だったろう」
 先ほどまでの不機嫌さなど微塵も残っていないうっとりとした夢見心地の声で、景良が皆に尋ねる。
 「ああ。とても――、とても素晴らしい。この世のものとも思えない素晴らしい美しさだった。さすがに、かの南殿の心を捉えただけのことはある」
 すぐに反応してきたのは輝元だった。まだ夢の続きにいるようなぼんやりしたまなざしで、すでに舞い手のいなくなった舞台を見つめる。
 「ほんとうに、なんと表現したら良いのか……」
 比日喜もそう言って大きく息を吐いた。

 景良はその二人の反応に至極満足そうにうなずくと、
 「どうだ、勝元、冬仁。お前たち二人の感想は?」

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