秋津島―akitsushima―
□九の章『叛旗』
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爽やかな風が海原を渡って行く。
セイは甲板に立ち、気持ち良く海風に身を任せていた。その金色の髪が、太陽の光を反射してまぶしく輝く。
「根国へは、あとどれくらいで着きますか?」
傍らにいた朱惺が尋ねてくる。
セイは振り返り、にっと白い歯を見せて笑った。髪が揺れて、金色の光を撒き散らす。
「なに、あとほんの少しさ。ここまで来りゃあ、目と鼻の先ってところだな」
「そうですか」
朱惺はほっとしたように息をつく。
「思ったより早く戻ってこられて良かったな」
「ええ」
セイの言葉に、朱惺も笑顔で頷いた。
それから手に持った包みを、大事そうに抱えなおした。中身は強い解毒作用のある薬草である。
朱惺の友人の手紙に従って、ある島へ薬草を採りに行くために、セイと朱惺が根国を発ってから二十日あまり。
二人は目的の薬草を手に入れ、意気揚々と根国への帰路についているのだった。
「それにしても、あんな小さな島に人が住んでいるなんて、えらい驚いたぜ」
「おかげで、すんなり薬草を見つけることが出来ました。あの方たちに感謝しなくては」
朱惺が言うと、
「まあ、気のいい奴らだったけどよ。でも、あれには参ったぜ」
「あれ?」
「あのませガキだよ。俺の嫁さんになるから一緒に連れて行けとか言って、船にまで乗り込もうとしやがっただろ」
鼻にしわを寄せながらセイが言うと、朱惺はくすくすと声を立てて笑った。
「あのくらいの年頃の女の子は、大人の男性に憧れるのですよ」
「そんなもんかねえ」
セイは首をかしげる。
朱惺はさらに言った。
「それに静香殿は美男子ですから。あの子が一目ぼれするのも無理はありませんわ」
その朱惺の言葉に、
「お前だって、あの島の男たちに大もてだったじゃねえか。俺、いろんな奴からお前のことを訊かれて、すごく大変だったんだぞ」
「私のこと、ですか?」
朱惺はきょとんとする。