秋津島―akitsushima―
□六の章『幸弥との出会い』
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比古の疲労は日に日に増す一方だった。
慣れない陸路の旅は、予想以上に比古の体に痛手を与えていた。
それでも比古は一言も弱音を吐くようなことはしない。無理にでも元気を装って長旅を強行していた。
思えば、その無理がたたったのであろうか。
西方諸国の玄関口でもある胡陵国に足を踏み入れた途端、比古は激しい目眩を感じて、道端にどうと倒れこんでしまった。
「大丈夫か、比古――」
セイが慌てて比古を抱き起こしたが、その時すでに比古の意識はなかった。
セイは何度も比古の名前を呼びながらその頬を叩いたが、比古はまったく目を覚まそうとはしなかった。
「比古、馬鹿野郎、しっかりしろ!」
そう叱咤するセイ自身も、急激に力が抜けていくのを感じる。
セイは激しく首を振ると、気を取り直して比古を担ぎ上げた。
強い日差しが、そんなセイと比古を容赦なく照りつける。
(くそ。こんなところで死ねるかよ!)
心の中で、セイは自分を叱りつける。
そもそもこんなことになったのは、コウの忠告を聞かずに大した旅装もなしに根国を出発したせいなのだ。
あの時もっとちゃんとコウの話を聞くべきだったと後悔しても、今さら後の祭りである。
そのうえ旅の途中で、根国へ売られて行く奴隷たちの一団を比古が見つけて、ついつい手を出したのが悪かった。結局セイは比古を止めることが出来ずに、二人して根国の役人たちに終われる羽目になってしまった。
逃げる途中で路銀を落とし、追っ手を振り切るために山道を抜けて、野宿しながらここまで来た。
だが街育ちと海育ちの二人には、山中で食料を調達するのは容易でないことだった。いったい何が安心して食せるものなのかまったく見当がつかない。
さすがに山に無知な人間がきのこなどを食べるのは危険だと思って避けたが、そのために口にできるものがだいぶ限定されてしまった。
木の実を食べたり草を食べたりしていたのだが、それでも何度かは腹を下し激しい腹痛が二人を襲った。
とにかく胡陵国まで行けば何とかなる。胡陵国まで行けばコウと合流することが出来る。
そう思ってここまだ歩いてきたのだが、いざ胡陵国に入ってみると、その国土の広大さに唖然としてしまった。
コウと待ち合わせた胡陵国の都までは、まだゆうに一週間ほどかかる距離があった。
それを知った途端に比古は倒れてしまったのである。