秋津島―akitsushima―
□四の章『伊佐那、幽閉』
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事件は突然起きた。
根国への従属をせまる亜相の強引なやり方に、とうとう耐え切れなくなった南方の二つの小国が、連合して根国への叛意をあらわしたのである。
まず手始めに、根国との交易を絶った。
次に、同じように亜相の圧力に苦しむ国々に、ともに立ち上がるよう檄を飛ばした。するとそれに呼応して、いくつかの国が連合に加わる意思を見せた。
その檄文は、敷島にももたらされた。
伊佐那は各部落のリーダーたちを集めると、ひろく皆の意見を求めた。
その結果、意見は真っ二つに割れた。
比較的若い世代のリーダーたちは参戦を唱えた。しかし年配のリーダーたちは断固としてそれに反対した。
話し合いは一昼夜にわたって続き、互いに遠慮なく議論をしたが、結果は杳として出なかった。
伊佐那はすべての意見に注意深く耳を傾けていたが、やがて大きく深呼吸すると、落ち着いた声で話し出した。
「私は、亜相の圧制に屈して根国に従属する気はない」
「おお、では――」
その伊佐那の言葉を聞いて、若いリーダーたちが一気に逸りそうになるのを、伊佐那は静かに押しとどめた。
「話を最後まで聞いてくれ。確かに、このままいけばいつかは根国と対峙しなければならないと思う。だが今はまだその時期ではない」
伊佐那の言葉に座がざわめく。
「今回蜂起した諸国には気の毒だが、現在の状況から判断するに、おそらくかれらのこころみは、根国の武力の前に屈するほかないだろう」
その途端、ざわめきが大きくなった。
伊佐那はゆっくりと座を見回すと、まるで一人ひとりに説き聞かせるように慎重に言葉を続けた。
「たしかに亜相のやり方は汚い。だが今のまま亜相に対抗しようとしても、結局は徒労に終わるだけなのだ」
皆はしんとして伊佐那の言葉に聞き入っている。
比古も伊佐那の傍らで、首長である伊佐那の意見にじっと耳を傾けている。
「根国は小国とはいえ先進国だ。武器でも戦術でもはるかに我々の先を行っている。我ら諸小国のいくつかが連合して戦を仕掛けても、その差は決して埋められない。正面からぶつかっていけば、いとも簡単に蹴散らされてしまうだろう」
伊佐那の容赦ない冷静な分析に、もはや言葉を発するものは一人もいなかった。