秋津島―akitsushima―
□弐の章『麻名の恋』
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セイが敷島にやって来てから三年の月日が経っていた。
白かったセイの肌はすっかり日に焼けて、今は伊佐那や比古と同じ褐色になっている。痩せて細かった体つきも見事に鍛え上げられて、頼もしい海の男そのものだ。
顔つきもだいぶ変わり、あのやさしげな繊細さはもう残っていない。性格や口調にいたっては、最初に会ったときとはまるで別人のようだ。
変わらないのは金色に輝く髪と美しい真紅の瞳だけだった。
「比古、何をぼんやりしてやがる。さっさと碇をおろさねえか、船が流されちまうだろ」
「あ、うん。悪い悪い」
セイに言われるまま、比古は碇を海中に下ろし、船を桟橋にしっかりとつなぎとめた。
「今日は大漁だったよね」
二人で釣った魚を引き上げながら比古が言うと、セイはにっと白い歯を見せて笑った。
「これだけありゃあ、当分食うのには困らねえな」
「うん、母さんもきっと喜ぶよ。麻名の料理の練習にもちょうどいいしさ」
「そんで俺たちは、また麻名の作ったあのまずい料理を食わされるわけだ。……ったく、たまったもんじゃねえよな」
セイはおおげさに鼻にしわを寄せる。
比古は笑いながら、日に焼けたセイの顔を見つめた。
「まあ、そう言うなよ、兄さん。あれでも麻名は一生懸命やっているんだからさ」
「それは分かってるがよ。あのままじゃ、あいつとても嫁には行けねえぞ。気が強くてじゃじゃ馬で、そのうえ料理もろくに出来ねえなんて、最悪だな」
げらげら笑い声をたてるセイに、比古は一寸困ったように顔をしかめてみせる。
セイは知らないだろうが、麻名は以前とはずいぶん変わってきたのだ。
確かに相変わらず気が強くておてんばなところもあるけれど、反面妙に女の子らしくなってきたと感じさせることがときどきある。
赤ん坊の頃から一緒に育ってきて、麻名のことをそんなふうに意識したことはなかったが、最近は比古でさえドキッとするような時があるのだ。
麻名は今年で十四歳になるが、ひとつ年上の比古と比べて、ここのところ急に大人びたような気がする。
以前は比古と一緒に海で泳いだり、砂浜で大の字になったりしていたけれど、今の麻名はもうそんなこしはしない。そのかわり阿夜に料理や織物などを熱心に教わっている。言葉遣いなどもだいぶん丁寧になったように感じる。
それに比べると、比古はまだまだ子供だ。背が伸びて体こそ大きくなったものの、心の方はちっとも成長していない。自分でもそれが分かっている。
やっぱり男と女では違うのだろうか。