秋津島―akitsushima―
□序の章『敷島』
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比古(ひこ)や。
速秋津比古(はやあきつひこ)や。
私たち敷島(しきしま)の海の民の話をしてあげようね。
私たちの先祖――そう、お前のじいちゃんのお祖父さんのお父さん、要するに大きいじいちゃんが、たくさんの仲間を連れてこの島にやってきたのは、今からもう百三十年くらい前のことだよ。
その少し前に、大きな大陸がひとつ海の底に沈んでしまってね。たくさんの人たちがあっと言う間に海に呑み込まれてしまった。それはそれはおそろしい出来事だったそうだよ。
え、なんだい。
どうして大陸が海に沈んだりしてしまったのかって。
さあねえ、それはばあちゃんにも分からないよ。
とにかくそのことがあって、きっとみんなとても気持ちが混乱してしまったんだね。世界中でいろいろな事が起きたんだよ。
私たちの先祖がいた国でもいやなことがあってね。……そう、戦争が起こったのさ。
大きいじいちゃんは戦争ってものが嫌で嫌でたまらなくなって、それで仲間をみんな引き連れて、海の向こうへ安住の地――みんなが安心して暮らせる場所のことだよ――をさがす旅に出たのさ。
そして何日も何日も海を漂ううちにやっと最初の陸地にたどり着いた。
けれどそこは岩と砂ばっかりのところでねえ、とても人が暮らして行けるような場所じゃなかった。
みんなはがっかりしてそこを去ると、また海へと漕ぎ出した。
そしてまた何日も何日も海を漂って、二番目の陸地にたどり着いた。
そこにはたくさんの植物があったけれど、それは全部毒をもっていてね。動物は一匹もいなかった。
みんなはがっかりしてそこを去ると、また海へと漕ぎ出した。
それからまた何日も何日も海を漂って、やっと三番目の陸地にたどり着いた。みんなは喜んだよ。そこには植物もたくさんあって、動物もたくさんいて、水も食べ物もたくさんあった。
でもね、そこにはもう人間たちが暮らしていたんだ。そしてほかの国と同じように、人間同士で争っていた。
みんなは本当にがっかりしてそこを去ると、また海へと漕ぎ出した。