第一部・旋風編

□旋風編・烈鬼の章
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 結局、ろうそくも尽きて、わずかな月明かりさえ木々に遮られて暗いけもの道を、昼間来た時の記憶だけを頼りに下ることになった。
 それでも穴蔵を進むよりはいくらかマシであった。
 が……
「……!?」
 最初に異変に気付いたのは千技であった。背中の覇斬烈風がそれを教えてくれたからだ。
「来るのか!?」
 千技が歩みを止め、続いて鉄斉が止まり、周囲に気配を凝らす。
「鬼か……?」
 覇斬烈風の束を握ると、その反応を更に強く感じる。
「後ろだ、鉄斉ッ!!」
「うお!?」
 千技の声に鉄斉がすかさず横に飛び退く。そこに鬼が突進してきた。
 間一髪である。
 闇夜に赤く不気味に光る鬼の眼。
「ふんっ!!」
 千技の覇斬烈風が一閃し、袈裟掛けに鬼を切り裂く。
「あら?」
 鬼はあっという間に蒸発し消えたが、千技はどうも腑に落ちないようである。
「どうした?」
 鉄斉が訝しげにその顔を覗き込む。
「まるで手応えがない……なんか、豆腐斬ってるみたい」
「豆腐?」
「簡単に言うと……弱い?」
「鬼がか?」
「そう」
「弱い鬼もいるのか」
「いや、まぁ──また来る!」
「おお!?」
 二人が同時に逆に飛び退いた所に鬼の突進。
「鉄斉、試しにやってみ!」
「九輪字をか!?」
「俺が引きつけとく!」
「やってはみるけどね……」
 千技が鬼を挑発しながら引きつけている間、鉄斉が文字を唱え始めた。
「滅 戒 封 断 破 討 絶 炎 撃!!」
 九輪字の完成と共に千技はひとっ飛びして鬼から離れる。
 相手を見失った鬼の背に九輪字の火炎弾が見事に命中する。鬼は瞬く間に炎に包まれ、轟く咆哮をあげながら、やがて、消えた。
「おぉおーっ!?」
 鉄斉が目をまん丸くして驚いている。
「な?」
 笑顔の千技が戻ってきた。
「俺の九輪字で、鬼、を倒した……?」
「そうゆうこと」
「九輪字で、ちゃんと倒した……」
「ん?」
「おおーッ!! 初めてちゃんと倒したぁーーッ!!」
 夜中の山中に鉄斉の勝利の雄叫びが轟く。
「ま、弱かったからな……」

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