第一部・旋風編

□旋風編・烈鬼の章
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 二人は店からはあまり離れてはいない場所にある道祖神の前にやってきた。
「お地蔵さんの裏に出たって言ってたな」
 小さな社の裏手には背の高い草が一面に生え、一見しただけでは何も見当たらない。
「おぉ……」
 しかし、その草をかき分けると空洞がぽっかりと姿を現した。
 空洞は斜め下に向かっている。そんなにきくつはない傾斜だ。
「入ってみるか」
「あぁ」
 確かに人ひとりが立って歩けるくらいは広く、高い。
「ちょっとキツい…」
 長身の鉄斉には天井は低く、腰をかがめなければならないようだ。
「俺ひとりでもいいぞ? 先はまた狭くなるかもしれんし」
「いや、行けるとこまでは行ってみる。いくつかに分岐してるっていうからな」
「そうか?」
 ろうそくのわずかな灯りで周囲を照らしながら進んで行くと、最初の分岐点にたどり着く。
 先の道は二手に分かれている。
「俺は右に行く」
「じゃ、俺は左だ」
 千技が右、鉄斉が左の道へと別れた。
 道はくねりながらゆるやかに下っている。
 しばらく進んでいると、
「千技」
 背後から鉄斉の声。
「どうした?」
 千技が振り返る。
「向こうは行き止まりだ。特に何がある訳でもないみたいだ」
「そうか」
 再び、二人で先へと進む。
 そして次の分岐点。
 ここも二手に分かれてはいたが、一方は上り、一方は下りとハッキリ分かれていた。
 千技が下りの方にろうそくの灯りを差し出して照らしてみると、先は徐々に細く狭くなっているのがわかった。
「どうやら、こっちが井戸の横穴に通じてるみたいだな」
「なら、上に行ってみよう」
「結構深いみたいね」
「だが、それほど複雑に入り組んでいるようでもないな」
「ま、比較的楽な方か?」
 しかし、意外に距離が長いせいで予備のろうそくも大分短くなってきている。
 更に次の分岐。
「一緒に行こう。ろうそくが保たないとまずい」
「だな」
 こんなところで灯りが無くなってはどうにもならない。
 鉄斉の持つろうそくの火を消し、千技のろうそく一本で先へ進む。
「今度の道はかなり長いな」
 千技のろうそくが限界に達し、鉄斉のろうそくに火を移しても、まだ先はあるようだ。
「かなりな上りだよな」
「どこまで続くんだ?」
 分岐も無いまま、そう思い始めた頃、向かいから冷たい風が流れ込んでくるようになった。短いろうそくの乏しい炎が風に揺れて消えそうになるのを、手のひらで遮って守る。
「外が近いようだ」
 明かりは見えないが、明らかに空気が変わっている。
 そして、ようやく外が見えてきた。
「出口だ!」
 その出口にはいく本かの竹と笹の葉に埋もれていた。
 竹をかき分けて出ると、そこは日も落ちて暗くはなっていたが、千技には確かに見覚えのある場所だった。
「ここは……」
 辺り一面の竹藪。昼間、鬼の痕跡を探していた寺の周辺だ。
「寺の跡地か?」
 竹藪の奥にわずかに覗く景色を見て鉄斉も気付いたようだ。
「こんなところに抜け穴があったなんて……」
 竹や笹の葉に隠されるように埋もれている穴を探すのは確かに容易ではない。
「いったい、なんの為に掘られたんだ?」
「もう一つの分岐も気になるな……」
 しかし、ろうそくはもうない。
「今日はもう遅いし、明日にするか?」
「仕方ないな」
 鉄斉の案に千技も納得する。
「また山道を下るのか……」

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