プチ連載
□Concerto puro amore〜純愛協奏曲〜
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再び頭を撫でて、山本は桜子に背を向けて歩き始めた。
優しい人に拾われて恋して、優しい人達に囲まれて、幸せな日々。
今の日常を壊したくない。けれど、骸の気持ちに答えたら、もっと幸せになるの…?
解らない。
解らないから知りたい。
でも、好きなのはボス。
今の日常を壊す勇気なんて無い。
あいつは嫌いな奴。
好きな人の命を狙っている嫌いな奴。好きになんてなったら、ボスに失礼なんじゃないかって気持ちが離れなくて。
あのドキドキは「好きだ」と言われたからだ。ただそれだけ。
それ以外に、ドキドキした理由なんて無い。
勇気が無いから、気の所為で済ませるしかないんだ…。
* * *
何だか寝付けなくて、桜子は窓の外から月を眺めていた。
拾われた時に当てがわれた部屋からは、ボスが守る町が望めて、月も見えるから、桜子はかなりこの部屋が気に入っている。
山本と別れた後、少ししてボスは帰ってきた。
「お帰りなさい!」と笑顔で出迎えたら、ボスは「ただいま」と頭を撫でてくれた。
雲雀さんがかなり暴れたのか、疲れ切っていたボスは、少し休むからと部屋へと行ってしまった。休息の邪魔は出来ない。だから、獄寺さんの所へ行き、構って遊んでもらっていた。
『そんなに暴れたんですか?』
『あぁ。敵のアジト全壊にしやがって…。俺にも止められねぇから、十代目に止めて頂いたんだよ』
獄寺に沢田や雲雀も、顔に傷を負っていた。
激しく乱闘した後なんだろうと言うのが直ぐに解った。でも、比較的沢田は二人に比べて傷が少ない気がした。
やっぱり強いんだ…と、桜子は改めて実感。それと同時に、凄く気になる事が見付かった。
雲雀が任務先で暴れるのは何時もの事。その事自体は、あまり不思議には思わない。けど、獄寺が止められない程暴れたなんて、あまり聞いた事が無い。暴れた理由を知りたくて、桜子は口を開く。
『どうしてそんなに暴れたんですか?』
『あぁー…』
言いずらそうに、桜子から視線をそらす獄寺。下らない理由なのか、はたまた理由なんて無いのか…。獄寺が止められない程だから、余程苛々していたんだろうな。
言っていいのか迷う。けど、口止めされた訳でもないしと、桜子に再び視線を戻して話し始める。
『ジャイロファミリーのボスに、お前の事を悪く言われたらしい』
『えっ…。そ、そんな事を…。っえ!?まさかそれで!?』
『あぁ。相当頭に来たらしいな。みすぼらしいガキを拾ってきて、傍に置いてるってよ』
そんなの、言わしておけばいい。わざわざ気にしなくていい。
軽く聞き流してくれればいいのに…。まさか、そんな事で怒ってくれたなんて…。
『そんな…事で…?』
『あいつは短気だからな。ちょっとした事で直ぐにキレやがる。そんでジャイロファミリーで大暴れして、俺じゃ止められなくて十代目に要請頼んだんだよ』
『本当にちょっとした事じゃないですか!!どうして…私なんかに…』
聞き流せばいい話。けど雲雀は、聞き流さずに怒ってくれた。それが嬉しくて仕方ない。だけど同時に、申し訳ない気持ちも溢れてきた。
優しい人達ばかり。
そんな人達に囲まれて、自分は大好きなボスの傍で平穏な毎日を送っているだけ。
優しさをくれるお返しも、居場所を与えてくれたお礼も、何にも返せていないのに…。
そんなんで、こんな暖かい優しさをもらっているだけでいいのだろうか…?
何一つ返せていない。
返せるものなんて思い浮かばないけど、このままじゃ駄目だと言うくらいなら解る。
何か無いだろうか…?
俯いている桜子の頭に、獄寺はそっと手を置き優しく撫でる。
『獄寺さん…?』
『私なんかって言うな。仲間の為に怒るなんて当たり前じゃねぇーか。俺が雲雀でも、ぜってぇーキレてたぜ。だから、んな事言うんじゃねぇ』
『獄寺さん…』
仲間だと、言ってくれた。
何にも出来ないこんな自分を、仲間だと言ってくれた。
優しい手に撫でられて、つい油断して涙腺が緩む。
認められた事が嬉しくて、桜子は俯いていた顔を上げ、笑顔を浮かべた。
こんなに優しい人達は、絶対にどこ探してもいない。
暖かい気持ちをくれるマフィアなんて、世界中探したっていやしないね。
ボンゴレファミリーだけ。
暖かい気持ちになれるのは、ボスが率いるファミリーだけ。
『その笑顔に結構癒されてんだ。桜子は、変わらずにいろよ』
『はい』
再び笑顔を浮かべる。
変わらない。ずっと、このまま感謝を忘れずに歩いていくからね。
頭を撫でてくれて、優しくて暖かい気持ちをくれる。
でも、一番暖かい気持ちは「好き」と言う気持ちだと言う事を、ちゃんと知っている。