プチ連載

□Concerto puro amore〜純愛協奏曲〜
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大嫌いな奴に告白された。



あいつの真剣さに、胸がドキドキして、伝えられなかった…。



どうして…


こんなにドキドキしてるの…?





Concerto puro amore.
〜純愛協奏曲〜






沢田の部屋を出た後、桜子は気を紛らわしたくて、息を切らせながら廊下を走っていた。
自分が解らなくて、桜子は未だ赤い顔のまま。走ったからなのか、治まらないだけなのかも解らない。


ずっと、嫌いだった。
大好きな人の命を狙う、骸が大嫌いだった。

だけど、抱き締められて告白されて、「嫌い」って気持ちがドキドキに邪魔されて吹き飛んだ。
あんな真剣に「好きだ」と言われて、どうしていいか解らない。

息の仕方も上手く思い出せない。
抵抗の仕方も、すっかり忘れていた。

そんな自分に驚いた。
優しい骸の腕から、離れようと思わなかった。

真っすぐな気持ち。
それを感じて、心を許し始めている自分に気付いた。


あいつはボスの命を狙っているんだ。心を許すなんて…。


「どうしちゃったの…私…」

今だに顔が真っ赤。
本当にどうしたらいいのか解らず、桜子は徐々に失速。廊下の壁に寄り掛かり、まだドキドキしている胸を抑えた。
呼吸を思い出して、冷静さを取り戻そうとする。

ボスの事が好き。
だけど、この恋は叶わない。
あんな可愛い恋人に、勝てるわけ無い。だから、密かに思っているだけで良かった。
誰にも知られずに、一人でこの気持ちが変わるまで抱えていればいい。そう思っていたのに…。


ボスの命を狙う奴に、気持ちがばれてしまった。そして、「嫌い」な奴から「好き」と言われた。


こんなにドキドキする。
どうして、「嫌い」と言えなかったんだろう…。


「はぁ…」

幾らか落ち着いてきた。
壁に寄り掛かり、次第に戻ってきた呼吸で息をする。すると、確かな足音と共に、陽気な声が聞こえてきた。

「桜子」

「や、山本さん…」

先程の事もあり、桜子は少し緊張気味に振り向く。けれど山本は、いつもの穏やかな笑顔を浮かべている。

桜子が、骸を快く思っていない事は守護者の皆が知っている。隠し通せている様で、隠し通せていない気持ちも。
骸の気持ちは、数名なら気付いている。だけど、山本は鈍感だから気付いていない。
桜子のさっきの表情は、快く思っていない奴に対しての反応じゃない。嫌いな奴に対して、あんなに顔を真っ赤に染める事があるのだろうか…。

何があったのかは解らないけれど、桜子にとって嫌な事じゃないのだろうな…と言う事は、何となくだけど解る。
勘の冴えている山本。あまりその勘が外れた事はない。

「大丈夫か…?」

「えっ?」

「さっき、何時もと様子が違ったからさ。何かあったら直ぐに言えよ!ツナも俺も、桜子の味方だからな」

「山本さん…」

優しい山本の言葉と、撫でてくれる暖かい手に、胸が熱くなってうるっと来た。
守護者は皆優しい。骸以外は、こうして頭を撫でてくれたり、優しい暖かい気持ちにさせてくれる。

「ツナ、結構桜子の事気に掛けてるからな。何かあったら直ぐ解っちまうと思うぜ」

「えっ…そ、そんな事ないですよ!ボスは優しいから…。例え山本さんが悩んでいても、直ぐに解っちゃう人ですから」

「確かにな」

思わず顔を赤く染めながら否定してしまった。
ボスは優しいから、仲間の変化には直ぐに気付く。その証拠に、桜子も気に掛けてくれていた。

「どうしたの?」と聞かれて、特別扱いをしてくれたみたいで、凄く嬉しくなった。

だけど、大切な人。
そんな意味でボスが一番気に掛けているのは、恋人の京子さんだけ。悔しいけど、それは絶対に変わらないから。
大好きな人に、一番大事に想われるって、凄く素敵な事。


骸も、そうなのかな…。
好きな人に一番大事に想われたら、幸せだと思うのかなぁ…。

好きだと告げたら、骸はどんな表情になるんだろう…。どんな風に喜ぶんだろう…。

(って、何考えてるんだろ…)

そんな考えを消そうと、桜子は頭を左右に振った。すると、再び山本が頭を撫でてくれた。

「思い詰めたら体に悪いぞ」

「そうですよね」

にこっと笑い掛けて、桜子は山本から元気をもらう。
そんなに思い詰めても仕方ない。
例え、嫌いな奴に好きと言われて動揺しても、桜子の気持ちは決まっているんだ。
悩んでいても仕方ない。為るようにしか為らない。

ボスが帰ってきたら、いつもの笑顔で出迎えよう。
ボスには心配かけたくない。ましてや、あんな奴の事で悩んでるんだ。あんな奴の所為で、ボスに心配は掛けない。

「じゃぁな」

「はい」
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