プチ連載

□ヘタ恋!
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「あ、メールも極力するなよ」

(メールもダメなの!?)

そこまでする必要あるの?

口から出そうだったけど、必死に耐えて飲み込んだ。

嫌われたくない。
折角振り向いてくれたのに、また振り出しに戻るなんて嫌。
勢いで食って掛かった事を後悔。桜子は不安げに瞳を揺らすと、俯いた。

「桜子」

名前を呼ばれて、桜子は顔をあげる。すると、目の前には跡部の顔。顔を真っ赤に染めながら、桜子は慌てて言葉にならない言葉を紡ぐ。

「なっ!?あ…あの…」

「俺、独占欲強いからな」

「はい…」

心臓が、飛び出しそうなくらいバクバクいってる…。
こんな間近で見るのは初めてで、やっぱり格好良くて逆らえない。どうしたって、好きな人の言葉には従うしかない。例えそれが、どんなに理不尽な事でも…。

初めて一緒に帰る道は、いつも侑士と帰る道よりも、短く感じた。
小さなわだかまりの胸に残して、跡部に手を振る。

緊張して、上手く話せなかった。明日は、話せるように頑張らないと…。


* * *


次の日、朝練で跡部を見つめる桜子。その横で、桜子を呆れながら見ている撫子。
朝練は、マネージャーも参加しなくてはならない。夕方よりは忙しくはないけれど、多少なりともやる事はあるから。そんなにやるべき仕事は多くない中、桜子はずっとこんな調子。

「桜子…何かあったの?」

「ぅえっ!?な、何が!?」

「さっきっから、ため息ばっかついてるよ」

「えっ…?そう?」

全く自覚がなかった。無意識の内に、跡部を見ながらため息を吐いていたらしい。
見惚れているのかと思いきや、何やら悩んでいる様子。付き合い始めたばかりなのに、何か悩む事があるのだろうか…。


まぁ……彼氏が、学園の帝王様の跡部なのだから、悩みはつきないだろうな。
現に親衛隊は、桜子にガンを飛ばしている。桜子は、全く相手にしていないけれど。
忍足と幼馴染みとは言え、全力で口喧嘩が出来る子なんだから、こんな事を一々気にするような子じゃないのは知っていた。知っていたけど、まさかここまで肝が座っているのは予想外だったけど…。

目を付けられている事に、桜子はもう慣れている。いや、嫌でも慣れないと忍足と幼馴染みなんてやっていけない。
学園の帝王様と付き合って、二番人気の忍足と幼馴染みなんて、羨ましい以外に、文句なんて思いつかない。気に入らない女子がいても、何にもおかしくない。それが普通だ。

「親衛隊の奴等に、何かされたの?」

「ううん。何にもされてないよ?まぁ、何かされてもおかしくないけど、あいつ等に嫌われる度胸はないから、何も出来ないよぉ」

「腹黒いなぁ…」

冷静に分析している辺りが、尊敬に値する。しかも、当たっている分、それに関しては何も反論はない。
跡部からしたら彼女。忍足からしたら幼馴染み。そんな間柄の桜子をいじめる度胸なんて、親衛隊にはない。二人が大事にしている桜子をいじめたら、嫌われるだけなんて解り切っているから。
だから、桜子からしたら、親衛隊なんて、怖い存在などではない。現に、全く恐れてないし。

「腹黒でいいよ…」

うなだれながら、再び落ち込む桜子。悩む事が想像付かなくて、撫子は頭を捻らせるばかり。
ずっと好きだった人と付き合えて、幸せな雰囲気を漂わせない桜子の気持ちが分からない。
一年の頃から好きな跡部と付き合えたんだから、もっと笑顔で、幸せそうでもいいはず。俯いて、跡部を見ようとしない。

「どうしたの?何があったの?」

「うん…。跡部君にね、侑士と話すなって言われた…」

「えっ!?マジで?」

「マジで。幼馴染みより、彼氏優先させろって…。あと、メールもするなって…」

落ち込みながら話す桜子の言葉を、撫子は驚きながら聞いている。
そんな事を言う人には見えないから、より驚きが増していく。

「独占欲の固まりじゃん!」

桜子と忍足が話しているなんて、極当たり前の光景。一日に何十回も見ている。
幼馴染みなんだから仕方ない。これで片付けられないのは、相当独占欲が強いと見た。

今更話すななんて、無理な気がするけれど…。

「私が大事って事だよね…?」

「そうだよ!何?そんなに落ち込む事なの!?相当桜子に惚れ込んでる証拠じゃん!!」

一番近い幼馴染みを遠ざけて、間に入ったりするなんて、嫉妬以外の何物でもない。
ただ、桜子が好きで仕方なくて、幼馴染みに渡したくないだけ。
そんな嬉しい独占欲を、桜子は素直に喜べない様子。
撫子の言葉を聞いた後でも、浮かない顔に変化はない。
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