プチ連載

□ヘタ恋!
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誰を待っているんだろうと解らなくなり、何だか不思議な気持ち。
忍足と話していると、尚更実感が湧かない。いつも通りだから、跡部と付き合う前なんじゃないかと、錯覚しそうになる。

「ふーん…俺は暇潰しの相手かいな…」

「ってか、あんた何でここにいるの?部活ないんだから、早く帰ればいいじゃん」

「散々説教しとった癖に…。ちゅーか、忘れ物取りに来ただけやのに、口煩い奴に捕まってもうたわぁ」

「捕まるあんたが悪い」

桜子が教室で待っていたら、忍足が忘れ物したとやってきたのだ。
何だかんだで、付き合い始めたからと言って、関係が変わるわけじゃない。いつもみたいにふざけあって、喧嘩しながら会話して、いつもと変わらない風景。

幼馴染みは幼馴染み。関係が、変わる事はない。

「はぁー…何でこんな奴と幼馴染みなんやろう…。撫子ちゃんはあんなにええ子やのに…」

「あんた、本気で喧嘩売ってんの!?私だって、何でこんなヘタレと幼馴染みなんだか…」

周りからは、格好いいと人気だけど、桜子からしたら、情けないばかりで、格好いい要素が全く見当たらない。
どこが格好いいのか、全く解らない。だからこそ、跡部が余計に格好良く見えるのだろう。
幼馴染みからしたら、ヘタレなだけで、魅力を全く、これっぽっちも感じない。
喧嘩を売ってるとしか思えない忍足の言葉に、桜子は怒りを顕にしながら言い返す。
こうやって、忍足に喧嘩を売られるのも、忍足に怒りを顕にするのも、桜子しかいない。心置きなく話せる相手は、桜子だけ。撫子とだって、こんな風に話をしたいが、絶対に無理。緊張して、上手く言葉が出ないから。上辺だけの会話なんて、好きな子とする話じゃない。

「どないして、撫子ちゃんと友達になったんや?」

「一年の時、クラスが一緒で、意気投合したから。それだけ」

「ふぅーん…。俺も、同じクラスやったら、普通に話せたんやろなぁー…」

「無理だよ。あんたじゃ絶対無理。ヘタレ侑士じゃ、何年経っても無理だね」

「むかつくやっちゃなぁー!!」

「そっちが先に喧嘩売って来たんでしょ!!」

喧嘩を始める二人。
ぎゃーぎゃーと煩い教室。
何時もの光景に、咎める人なんていやしない。普段なら、止めようとする人はいない。けれど、今日は二人に割って入る声が聞こえてきた。

「桜子、待たせて悪かったな」

「跡部君!大丈夫だよ。思ったより早かったね」

忍足への怒りを忘れたように、嬉しさのあまり顔を赤く染めながら、笑顔で振り替える。
初々しい桜子に、跡部も思わず顔を綻ばせる。
跡部に駆け寄り、再び笑顔を浮かべる。

「あぁ。あんまり待たせちゃ、わりぃーからな。帰ろうぜ」

「うん!」

ムカつく忍足は無視。わざわざ挨拶する必要なんてない。

「じゃぁな、忍足」

「ほなまたなぁー」

笑顔で手を振る忍足に振り返る事なく、桜子は幸せいっぱいで跡部に着いていく。
こうして跡部を待って一緒に帰るなんて、幸せ過ぎてどうにかなってしまいそう。
待っている間は、忍足に邪魔されて余韻に浸っている暇なんてなかったけど、今は本当に付き合ってるんだと、実感が湧いてきた。
笑顔が止まらない。嬉しくて、顔が綻びっぱなし。

「忍足と、何話してたんだ?」

「え?下らないことだよ」

本当にくだらない事。跡部に話す価値もない。
最後には、喧嘩して終わってるし…。忘れたいくらいだ。

「そっか…。本当に、仲良いんだな」

「えっ!?どこが!?あんなムカつくヘタレと仲良いわけないじゃん!!」

「そうか?」

「そうだよ!」

ムキになって言い返してくる桜子に、跡部は無性に腹が立った。
たかが幼馴染みという関係なのに、こうやって桜子は素を見せる。忍足の前で、怒ったり笑ったりするのが、許せない。
ただの独占欲。だけど、好きな子を独り占めしたいなんて、極当然の事。だからこそ、気付いたらつい言葉にしていた。

「だったら、もう忍足と二人でしゃべるな」

「えっ…」

「彼氏が出来たんだから、幼馴染みと距離置くのは当然だろう。それに、仲が悪いなら、話す事もないよなぁ?」

「そ、そう…だね…」

唖然としながらも、嫌われたくなくて、途切れ途切れに返事をした。
彼氏は彼氏。幼馴染みは幼馴染み。そんなもんだと思っていた。
彼氏が出来ても、幼馴染みの関係は変わらない。今までみたいに喧嘩して罵りあってればいい。そう、簡単に考えていた。

(彼氏が出来たら、幼馴染みと話す事も出来ない…?)

納得できない。
だけど、やっと付き合えた跡部の言葉。無理矢理、納得せざるを得ない。
もしここで、「イヤだ」って答えたら、確実に幼馴染みをとった事になるんだろうな…。
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