プチ連載

□ヘタ恋!
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「俺と付き合ってくれ」

夢の様な、嘘の様な言葉。
だけど、真剣な言葉に、顔を真っ赤にしながら頷いた。

「私も…ずっと好きだった…」

想いを伝えられた。
叶うなんて思っていなかったから、こうなる展開なんて予想出来なくて、跡部との未来は未知の世界…。





ヘタ恋!
第二部






「明日雨やんなぁ…」

放課後、教室から外を眺めながら忍足はぽつりと呟いた。
今は青空がどこまでも続いているが、天気予報では明日は雨だと言っていた。今日の今の快晴の天気からは、想像がつかない。
明日の部活は、ミーティングか筋トレだろうな…。

「ねぇ、それって嫌味?」

忍足の背後で、忍足を睨む桜子。想像がつかない事として繋げると、桜子にとったら、忍足の呟きは嫌味にしか聞こえない。
明日が想像出来ない。思いがけない事が起きた。跡部と付き合えた桜子に、嫌味を言っているのか違うのか…。
桜子に睨まれて、忍足は肩を竦める。

「半分な」

「撫子に何も出来ないあんたに、んな事言われたくない!」

忍足は、桜子の友達の撫子が好き。そして桜子は、忍足の部活仲間の跡部が好き。
叶わないと思いながらも、跡部の印象に残りたかった桜子は、勇気を振り絞って男子テニス部のマネージャーに志願した。見事にマネージャーに就任し、跡部との会話を日に日に増やしていった。
そして昨日、想い人の跡部に告白された。叶わないと解っていた相手から、告白された。まるで嘘みたいで、今だに信じられない。自覚もなければ、実感もない。
朝練の時も、跡部はいつもの様に接してきた。一つ違う事があるとすれば、「一緒に帰ろう」と約束した事。

それなのに…。
撫子と何の進展もない忍足。頑張っていれば嫌味も聞き流せたけど、何にもしない忍足に嫌味なんて言われたくない。

「両想いやったから、付き合えたんやん。俺は両想いやないから、気張っても叶わへん…」

桜子の恋は、元々跡部が桜子に好意を抱いていたから、少しの頑張りで叶った。
少し気になっている子が、自ら近付いて来てくれた。そして、会話も少しずつ増えていき、完全に惹かれていった。
しかし、忍足の場合は違う。忍足の完璧な片想い。撫子は、忍足を桜子の幼馴染みとしてしか見ていない。頑張った所で、忍足の恋が叶う確立は、極めて低い。
すっかり捻くれてしまい、諦めモードに入った忍足に、桜子は思い切り背中を叩き、何もしていない忍足を叱咤する。

「馬鹿!あんた、どこまでヘタレなのよ!頑張ってみなよ。叶うかも知れないじゃん。あんた、顔だけはいいんだから」

「顔だけって何や。だけって…。頭もええし、ルックスやって完璧やん」

「だけどヘタレじゃん」

「うっさい…」

叶わないからと言って、最初から諦めて何もしなければ、可能性だって低いまま。可能性が無くなるだけで、決して高くなんてならない。
振り向いてくれる可能性がなくても、頑張れば、もしかしたら振り向いてくれるかもしれない。
まぁ、初めから好意が全く無かったら、その可能性は低いと思う。
幸いな事に、忍足は顔はいい。跡部と並んで格好良い部類に入る。男子テニス部は人気も高いし、少し頑張れば、振り向いてくれそうな気がする。けれど、忍足にはそこまで頑張る勇気はない。踏み出す勇気がないから、これ以上は近付かない。
怖気付いて、何にも出来ない。身動きすら取れない状態で、一歩を踏み出すなんて、今の忍足には到底無理な話。
話す事すらままならないのに、振り向いてもらおうなんて、虫が良すぎる。何もしないで振り向いてくれる訳が無い。忍足が何もしないのなら、現状はこのまま。
叶わない恋は、叶わないまま。

「まぁ、あんたが叶えようとしてないんじゃ、叶わないわね」

「そないな事より、お前何でここにおんねん?」

素朴な疑問をぶつけてきた。
口煩い幼馴染みに、容赦なく文句を言われ飽きた忍足は、どっかに行ってくれという願いをこめる。桜子からの説教は聞き飽きた。

「跡部待ってんの」

「その跡部は何してんねん」

「先生に呼び出されてる。すぐ戻るって言うから、ここで待ってんの」

HRが終わった後、跡部を迎えに行こうとしたら、向こうから迎えに来てくれた。だけど、担任に呼び出しを食らったという用件を伝えに来てくれて、面倒臭そうな表情を浮かべていた。
すぐ終わるから、ここで待っててくれと言われて、大人しく…いや、忍足に説教をしながら待っているのだ。
こうして待っていると、付き合えたんだ…という実感が全く湧かない。まるで嘘みたいで、夢の中にいるみたいで、いつかは目が覚めるんじゃないかと思えてくる。
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