プチ連載

□捕われの姫の哀れな末路
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「恭…弥…」

「あの男誰?まさか、君の彼氏なんて言わないよね?」

怒っている。
恭弥が、明らかに怒っている。
少しだけ、口調が荒い。そして、苛つき気味なのが見て取れた。

「か、彼氏…だけど…でも…」

「僕に内緒で、彼氏作っていいと思ってるの?ねぇ…君の彼氏、目障りだから咬み殺していい?」

私の言葉を遮り、冷たい口調でそう問いかけてきた。私の返事なんて意味をなさないのに。
それはすごく冷酷で、そして本気の言葉だった。
私が何も言わなくても、恭弥は彼を殺す気だ。咄嗟にそう思い、寒気を感じた。
戦いにしか興味のない恭弥は、目障りな奴を消したいだけ。
幼馴染みの彼氏だからとか、そんな単純な理由からじゃない。
殺気しか写していない恭弥の瞳に見つめられて。私という女の子は、恭弥の瞳には写っていない。
抑えつけられている腕が、ズキッと痛んだ。

「いっ!」

明らかに、いつもよりも恭弥が怖い。そこまで怒る必要があるのか、私には解らない。だけど確実に、私の知らない恭弥が、そこにはいた。
守ってくれていた恭弥とは違う。こんなに、殺気に溢れた人じゃなかった。助けてくれた時の恭弥は、もっと優しかった。今の恭弥は、何をしでかすか解らない。

「恭弥…?」

恐る恐る問い掛けると、恭弥は口元をニヤリと歪ませた。
その表情がとても怖くて、私はビクリと体を震わせた。

今の恭弥は、怖い。
私の知っている恭弥じゃない。
私の知ってる恭弥は、こんな風に笑う人じゃない。もっと、優しく笑う人だ。
咄嗟に、恭弥から逃げだそうと思った。勢い良く起き上がり、恭弥から離れようとするが、あっさりと捕まってしまった。

「どこ行くの?」

「あっ…」

「逃がさないよ。僕の腕からは…永遠にね」

「いっ…いやぁっ!」

恐怖は募る一方。
そのまま再びソファーに押し戻されて、私は初めて恭弥に抱かれたんだ。
怖がる私を、恭弥は無理矢理組み敷いて…。

荒い手解きで。
冷たい言葉で。
そして、冷酷な、笑みを浮かべながら。

制服を無理矢理裂かれて、泣き叫んで、足を無理矢理開かせられて。

泣いても泣いても、恭弥は全く辞めてくれなくて。

望んでいた展開。だけど、こんな冷たい腕は望んでいない。

今思えば、これが私の幼馴染みなんだ。
平気で人を傷つけて。戦うことにしか興味を示さない。
あの冷酷な笑みを浮かべる恭弥こそ、本当の雲雀恭弥だったんだ。
私が見てきた恭弥は、私だけに向けていた作り物。私を、騙す為だけに、恭弥が作った偽り。

恭弥に初めて抱かれた日から、私の日常は恐怖と化した。
少しでも、男子と口を利くだけでも、夜通し犯された。
泣き叫んでも、恭弥がその腕を緩めることはない。
寧ろ、泣いて許しを乞えば乞うほど、その腕は荒く、冷酷になっていた。
乱暴に残酷に扱えば、恐怖が湧いて、逆らう気を無くすだろうと恭弥は考えたんだろう。
今はその通りになっている。怖くて、恭弥に逆らう気なんて、全く起きてはこない。
怖くて。恭弥が怖くて、まともに話さえ出来ない。
体を震わせて、怯えた瞳で恭弥を見るばかり。
夜通し犯された次の日でも、学校には行かないといけない。
恭弥が裏から支配している並中に置いて、監視したいのだろう。目の届く範囲に、置きたいのだろう。
廊下を、ビクビクしながら歩いていく。男子に話しかけられても、無視しなくてはならない。
どこかで、恭弥が見ているから。監視されているから。いつだって気が抜けない。
ここには、死角なんてものは存在しないんだ。どこにいたって、恭弥から逃げることなんて出来ないんだ。

あくまで、残酷に。
優しい言葉なんて掛けてはくれない。決して口にしてはくれない。
恭弥は私を、人形にしか思っていないから。
優しくなんてしてくれるはずがない。

だけど、嫌いになれない。
どんなに冷酷で残虐に扱われようと、恭弥を嫌いになんてなれない。

恭弥は私に、非道いことしかしない。
でも、どうしてもこの気持ちは消せない。

好きなんだ。
どうしても、私は恭弥のことが好きなんだ。

微かな希望を。
微かな光を。
私は望んでいる。

だからこうして、自ら離れようとしないんだ。
このまま傍にいれば、恋人になれるんじゃないかなんて浅はかな夢を見ている。

小さい頃からの気持ちは、簡単に変えられるものじゃない。
どんなに非道いことをされても、離れるなんて出来やしない。
少なくとも私は、それが出来ないタイプの人間みたいだ。

学校にいても家にいても、近くには恭弥がいる。それが単純に嬉しい。けれど、後のことを考えると怖くなる。
私すらも映さない冷酷な瞳。それを向けられるのがとてつもなく怖い。
唯一、恭弥の嫌いなところかも知れない。

怯えるしかなくて。
震えるしかなくて。
身動きすらとれなくなる。
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