プチ連載

□ヘタ恋!
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必死に練習しているから、皆汗だくで喉もカラカラ。疲れを癒すべく、皆水分補給は欠かさない。

「タオル」

催促されてタオルを渡していく中、明らかに間違っている幼馴染みが、桜子の元に来た。 そんな幼馴染みと視線が合い、桜子は流れ作業の様に渡していた手を引っ込めた。

「あんた馬鹿?なんで私の方に来んのよ!」

やる気の見えない幼馴染みを睨み、軽く…いや、結構な怒りの声を上げた。
チャンスを生かさない忍足に、怒りが込み上げてくる。見た目押しが強そうに見えるが、実は押しが弱い上に苦手。 桜子に怒られた忍足は、情けなさそうに口を開く。

「しゃ、しゃーないやん…。あんま話し掛けられへんって!」

「どんなけ情けないの?ったく…あんたが言うから、撫子マネに引き入れたんじゃない。少しぐらい頑張りなよ」

条件を付けて、撫子をマネに引き入れただけ。それから、積極的に話し掛ける訳でもなく、ただ見ているだけ。何もしようとしない。

桜子がマネージャーになる時に、忍足から出された条件。それは、「撫子ちゃんも一緒に連れてきてほしい!」と言う物だった。
それを聞いて、忍足が撫子に思いを寄せているのだと知った。
幼馴染みからしても、友達からしても二人はお似合いだと思った桜子は、協力する事を決意。 しかし、忍足のヘタレっぷりに呆れるばかり。接触しようとしない忍足に、桜子はやる気があるの?と、何度蹴を入れた事か…。
今もこうして、撫子に話し掛けようともしない。

「いや…お前がマネやる言うから、チャンスや思うて、勢いで撫子ちゃんもって言うてしもうたんやけど……なぁ?どうにかなる思うたんやけどなぁ」

「なぁーんにも行動しないで、どうにかなる訳無いでしょ!!ヘタレ侑士!!」

顔に似合わず、幼馴染みのヘタレ侑士に、桜子は喝を入れる。
無理矢理にでも背中を押さないと、侑士は行動を起こさない。やっと行動を起こしたと思ったら、次の一歩が踏み出せない。まぁ、最初の行動を中々起こせなかったのは、桜子も同じ。しかし、今は桜子は近付こうと努力している。けれど侑士は、慌てるだけで話し掛ける事すら、自らしない。

「お前やって一年の頃から好きやった言うて、マネ志願したん今更やないか」

「なっ!煩い!!私はいいのよ!一歩踏み出して、頑張って話し掛けてんだから!!」

今の桜子に は、話し掛けるのが精一杯。少しずつ距離を近付けようと、努力している最中。
一年の時に跡部に一目惚れした。だけど、あまりの人気ぶりに気圧されてしまい、卑屈になった。

どうせ私なんて…。

言い寄ってくる女がいっぱいいて、特別綺麗じゃない自分なんて、相手にしてくれる訳がない。
頑張って話し掛けたって、言い寄ってくるその他大勢の女と一緒にされて、印象になんて残らない。
頑張っても、意味がない。どんなに頑張っても、絶対に手の届かない人だと解っているから、どうにかなるものでもない。

だから、何もしなかった。
傷つくのが怖くて…。現実を思い知らされるのが嫌で、頑張る事すらしなかった。

何度か諦めようと思った。
しかし、一度好きになってしまった人を、忘れるなんて出来ない。
中々想いを断ち切れず、引き摺ったまま時が過ぎていった。

どうしても好きで。
思いを断ちきれなくて。
諦められなかった。

どうしても好きで、相手にしてくれない、ダメだと解っていながらも、侑士が同じ部活に入っているからと、顔を出してみた。
その時に、侑士と話していたら跡部から声を掛けてくれたのだ。最初は驚いたけれど、後から侑士によく話す、という話を聞いて、早く言えよ!と蹴を入れた。
それから、少しずつではあるが、侑士を介して話せる様になった。そして、三年になってから、大会に出る事が多くなり、忙しいと跡部がチラリと言っていたのを思い出した。それで、マネを申し出たのだ。

やっぱり、見ているだけじゃイヤ。何か行動しないと、絶対後で後悔する。
傷つくのも、後悔するのもイヤ。

けれど傷付くなんて、始めから解っていた事。振り向いてくれる訳がないんだから、頑張れるだけ頑張りたい。
両思いなんて、大それた事をしたい訳じゃない。ただ、印象づけたいだけ。その他大勢だけで終わりたくないだけ。
勝てない恋に、敢えて勝負を挑んだ訳じゃない。ただ、少しだけでも、近付きたいだけ。実らせようなんて考え、桜子には最初っからない。

「そっちやってヘタレやん…」
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