プチ連載

□ヘタ恋!
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当たり前だと思っていた。



でもそれが、当たり前じゃないと知った。



解った途端に、淋しくて悲しくて…。



ずっと抱いていた安心感が、恋だったんだと気付いた。





ヘタ恋!
第一部






ダラダラと放課後を過ごす奴の傍らで、青春の汗を流す奴。
まぁ、ただ単に、部活に励む幼なじみを、ボケェーっと眺めているだけなのだけど。
特にする事がない放課後は、幼なじみの部活風景を眺めているか、頑張っているかの、このどっちかの選択肢しかない。

「つまんない」

今日は、特につまらない。
だって、視界に入ってくるのは幼なじみとその仲間だけ。
お目当ての人がいなく、ダラダラと部活風景を眺める。
ダラダラしている桜子を見て、見兼ねた親友の撫子が、ため息をつきながら口を開いた。

「ちょっとあんた、跡部様がいないからって気ぃ抜き過ぎ!」

「だって…今日生徒会で部活来れないんでしょー?」

しょぼくれながら、桜子は言葉を返した。
桜子のお目当ての跡部は、今日は生徒会があるから来れないと、部活を欠席。
好きな人でもあり、好きな人を見る為に男子テニス部に顔を出している様なもの。
放課後の部活で、好きな人を見に行く。そんな青春の真っ只中、桜子は男子も引くような堕落ぶり。跡部がいたら、絶対に見せられない。あくまで、跡部ありきの部活。居ない時は、ダラダラと時間を過ごしている。

「だからってダラダラし過ぎ!仮にも、うちらマネなんだからね!」

撫子に背中を叩かれ、軽く咳き込んだ。マネージャーの仕事をしないで、堕落してれば、そりゃぁ怒られるよ…。

少しでも跡部に近づきたくて、勇気を振り絞って、マネージャーに志願した。
最初、男子テニス部にいる幼なじみの忍足に相談した所、「ええやん」という答えが帰ってきた。しかし、ある条件があると言い出して、今に至る。
まぁ、一人じゃ淋しいという悩みもあったけれど、撫子のおかげと言うか、忍足の条件で見事解決。
二人で、男子テニス部マネージャーに就任。マネになってから、跡部と話す回数も以前より増えて、幸せな日々を送っている。
しかし、今日は跡部はいない。今日ほど、不幸せな日はないと、桜子は力抜きまくり。

「へいへぇーい」

「ったく…。跡部様がいない時といる時だと全然違うんだから」

「好きな人がいないと、力入んないんだもん」

好きな人が目の前で頑張ってるから、自分も頑張れる。
少しでも、良く見られたい。
少しでも、その瞳に映りたい。
好きな人の、力になりたい。そう願いながら、マネに励んでいる。
けれど、今日はその跡部がいない。ダラダラと、仕事をしないで部活風景を眺めているだけ。

「解るけどさぁ…。ったく…何であんな格好いい幼馴染みがいるのに、違う人に目が行くかなぁー」

「幼馴染みは幼馴染みだもん。恋愛対象にはならないよ。まぁ、一緒にいて安心するけどさ…」

「紙一重なんだね」

誰よりも近くに、勉強も運動も出来る、完璧な幼馴染みがいる。
そんな幼馴染みに惚れないで、幼馴染みよりも上を行く完璧な人を好きになった。
幼い頃から、完璧な男子が近くにいれば、それが当たり前になってくる。そんな幼馴染みの上を行く人が現れたら、素敵…と思ってしまうのは仕方の無い事。
他人からしたら、そんな幼馴染みを好きにならない桜子の気持ちが理解出来ないんだ。
あんな格好いい幼馴染みがいて、何で好きにならないの?なんて台詞、桜子は飽きる程言われた。
小さい時から一緒にいれば、目が肥えるのは当たり前だ。
他人が「何で?」と思う事も、桜子からしたら、極自然な流れでしかない。
幼馴染みだから、お互いの事も知り尽くしている。一緒にいれば安心するし、落ち着く。
その安心と好きと言う気持ちは、きっと紙一重。いつ、変わるか解らない。今は違っていても、明日には好きの気持ちに変わるかもしれない。
それは、本人達にも解らない。

「まぁ…侑士が好きとか、考えられないけどさ…」

チラリと撫子を見た。
好きになるとか以前に、幼馴染みとしてしか見れない。
それに、叶わないと解っている人を好きになる程、桜子は馬鹿ではない。
勝敗がはっきりしているのに、わざわざ負けに行く人なんていやしない。

「今は…でしょ?まぁ、あんたが跡部様って騒いでて幸せそうだからいいけどさ」

「なら言わないでよ。あ、休憩みたいよ」

定時の休憩に入るのか、レギュラー陣達は、ラケットを立て掛け始めた。そして、ベンチへと向ってきている。
急いで、タオルや作っておいたドリンクを用意する。
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