帝国県立帝王女子学園

□誓い、永遠に変わらぬ想い
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時々、思う事がある。


本当に、私なんかでいいのかと…。





誓い、永遠に変わらぬ想い





あなたを好きになって良かった。心の底から、そう思う恋をしたい。けれど、あなたは振り向いてくれない。
この想いが、あなたに届く事はない。報われない恋だと、そう思っていた。

だけど、あなたを好きだと言う気持ちが簡単に消せる訳でもなく…。
どう頑張ったって、この気持ちは消せやしない。
最初から諦めていたんじゃ、恋なんか出来ない。だから、私は思い切って思いを告げたんだ。そして…、思いを告げた後が、今のこの状況。


「忍足せんせぇー!さよならぁー」

「せんせぇー。数学解んない!教えてぇー」

「忍足せんせぇー。今日も格好いいですよぉ」

当たり前の様に、黄色い声が廊下に飛び交う。
いつもこうだ。
忍足先生が通るだけで、見ているだけじゃ満足できない生徒が、我先にと声を掛けていく。当の本人は、騒ぎに拍車を掛けるような笑顔で返していくから、これまた厄介。
生徒に騒がれて嬉しくない訳はないが、煩いとか思わないのだろうか…。そもそも、何を考えているのかよく解らない。

「凄い人気だね…忍足せぇんせッ」

「……」

目の前に座っている友人の撫子が、廊下に視線を送りながら口を開いた。
言われなくても解ってる。先生が、校内で一、二を争う程の人気教師だと言う事くらい…。
承知して入ったんだし。
悔しいとか…。淋しいとか…。そんな感情じゃなくて、ただたんに、凄い。そう思った。もう、先生の心を繋ぎとめた。それから来る自信?普通なら、近づかないで…!そう思うはずなのに…。不思議と、私はそう思わなかった。

「格好いいし、知的だから解るけどさぁ…」

「ん?」

「格好良すぎるのよ!!」

「あぁー…はいはい…」

私は呆れながら頷いた。
確かに忍足先生は格好良すぎる。それ故に、皆手が届かないと解っていて、本気で狙ったりはしていない。中には本気な子もいるだろうけど…。
女子校だから出会いがない。けど生徒からしたら、先生との出会いが運命の出会い…なのかもしれない。

「あれ?プリント…」

机の中を漁っていて、数学のプリントがない事に気付いた。
先程までの授業は数学。返された覚えはないし…。私だけまだ返されてない…?
出すのが遅かった訳じゃない。そう言えば…、私のプリントだけ見つからないとか言っていたような…。ぼけぇーっとしていてよく話しを聞いていなかった。
返してくれなきゃ授業出来ないじゃん…。まっ、そのうち返してくれるだろう。またなんか変な、でも嬉しくなるメッセージでも書いているのだろうから…。
撫子の話しを半ば無視して、私は頬杖を付きながら、意味もなく溜息をついてみた。

「神崎ー。プリント見付かったわ」

「えっ?あぁー…はい」

溜息ついた直後に、先生が教室に顔を覗かせた。
驚きつつも、先生がひらひらさせているプリントを受け取りに、席を立った。
先生の手からプリントを受け取る。私がプリントを受け取りに行くと、先生は意味深な笑顔を浮かべていた。

「神崎は勉強出来るんやからしっかりやりぃ」

「…はい」

笑顔でそんな事言われても…、説得力無いって言うか迫力ないって言うか…。
プリントは真面目に出してる。ノートも…、後程、取っている。いつも撫子に見せてもらってるから…。でも、授業中寝たりはしていない。だからしっかりやっている方だと思う。
先生を無表情で眺めていたら、先生は小さく、短い声で「プリント」とだけ言い残すと、ご機嫌でその場を後にした。

(プリント…?)

先生が言い残して行った言葉が気になった。
私は手に持っているプリントに視線を向けた。プリントがどうかしたのだろうか…。特に変わった様子は見えないけど…。

「……あ」

見つけた。
見付からないように小さく書かれた先生の綺麗な字。それは、小さくても、私を嬉しくさせるものだった。
思わず零れる笑顔を隠すのに、私は気を抜いていた。けど、嬉しさを隠す必要は何処にもないから。
私は、笑顔のまま席へと戻って行った。
プリントの端に小さく書かれた、私宛のメッセージ。

『放課後
視聴覚室で待ってる』

このメッセージを胸に秘めて、私は好きな人から受け取ったプリントを眺めながら、喜々とした時を過ごす…。


*  *  *


視聴覚室は防音効果が施されているから、どんなに騒いでも、外に聞こえる事はない。
駆け足で階段を駆け上がり、そっと、視聴覚室のドアを開けた。恐る恐る中を覗くと、忍足先生の姿。けど、なんだか少し眠そうにしている。こくりと首を傾げて、ウトウトしている。
私は先生を驚かさない様に、静かにドアを閉めて忍足先生に近付いた。
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