プチ連載

□ヘタ恋!
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恋を実らせようとしていない辺り、桜子も人のことを言えない。
頑張って振り向かせようとしてない辺りが、気弱な証拠。友達で良いなんてただの綺麗事。だけど、叶わないのも事実。
好きな人がいて、叶わない恋だと解っていたら、手は出さないけれど、跡部は、そんなんじゃないから…。

遠い世界の人。 けど、近付きたいという恋心もあるから、叶わないと解っていても、手を伸ばしてみたくなる。話してくれるようになり、余計に気持ちが高まっていくばかり。

「うっさい!ほら、早くしないと休憩終わるよっ!」

「どわっ!お前、何すんねん!」

忍足の背中を押して、撫子の方へと追いやる。ここで話してても埒が開かない。
無理矢理撫子の方へ押して、無理矢理にでも話をするよう仕掛けるしかない。
桜子に押された瞬間を見ていなかった撫子は、近くに来ていた忍足に笑顔で話し掛けてくれた。

「あ、忍足君。タオルまだ余ってるよ。使うでしょ?」

「あ、あぁ…おおきに」

渡されたタオルを受け取りながら、動揺を顕にして言葉を返す。
どこかたどたどしくて、人気者の面影はそこにはない。そこにいるのは、男子テニス部の天才じゃなくて、ただの恋する少年。
好きな子を目の前にして、何を話せば良いか解らない。動揺を顕にするのは格好悪いと、平然を装うけれど、心臓はバクバク。はち切れてしまいそうだ。
堪らず、桜子を一瞥して、助けを求める。恋愛慣れしていそうな忍足だけど、周りが騒いでるだけで、自分から好きになった事が無い。だから、こんな場面慣れているはずがない。寧ろ、どうしたら解らなくて、戸惑うばかり。
再び一瞥すると、桜子に冷たく首で「自分でなんとかしろ」と合図をされた。
助けになんて来てくれない。桜子だって、自分の恋で忙しいのに、他人の恋愛に口を出している余裕なんて無い。

(薄情もんや!)

そう思いながら桜子を睨み、撫子 に視線を戻す。
少しくらい助けてくれてもええやん!と立腹するも、目の前には笑顔を浮かべた撫子の姿。それを見ただけでも、桜子への怒りは自然と撫子への恋心で掻き消される。

二人で、恋愛協定を結んだ。
忍足は桜子の友達が好き。
桜子は忍足の部活仲間が好き。
お互いの恋が叶う様に、協力し合う事に決めた。桜子は叶える気はないけれど、幼馴染みの恋は叶えてあげたい。だから、さっきみたいにヘタレ忍足が撫子と話せる様に、背中を無理矢理押したのだ。
協力する代わりに、自分の気持ちに正直になって積極的に行け。
そう言ったにも関わらず、中々撫子に近付かない忍足を見て、ため息を吐きたくなった。
今だって、戸惑うばかりで一言も話せてもいない。撫子は他の部員と話している。そんな忍足を見て、呆れる事しか出来ない。

「駄目だな…」

「本当だな」

「本当だよぉー…」




ん?

いきなり聞き慣れた声が背後から聞こえてきて、一瞬時が止まった様に動けなくなった。
声の主に気付いて、桜子は顔を真っ赤に染め上げて、勢い良く振り向く。

「あっ、ああ跡部君!!な、ななななんで!?」

「驚き過ぎだ」

「だっ、だって…」

声を掛けて来たのは、紛れもない、正真正銘の、桜子の想い人の跡部。顔を真っ赤にして慌てる桜子に、不適な笑みを向けている。
今日は生徒会で来れない筈。確かに、跡部本人から、「生徒会があるから来れない」と聞いた。この耳で、はっきりと聞いた。
それなのに、何故テニスコートに跡部の姿があるのか…。いきなりの事に驚きすぎて、桜子の思考は、理由にすら辿り着けない。
慌てている桜子の気持ちを知ってか知らずか、顔が真っ赤な事には触れずに、跡部は再び口を開く。

「生徒会が早く終わってな。まだ部活してる時間だし、来てみたんだよ」

「そ、そうなんだ…。じゃ、じゃぁ…部活に参加出来るの?」

「あぁ」

「良かった…」

つい、顔が綻んでしまう。小さい声で呟いたから、跡部には聞こえていない。
来ないと思い落ち込んでいた気持ちが、跡部の言葉だけで、一気に喜びへと変わっていった。
今日は跡部に会えない。そう思っていたから、やる気が起きなかった。だけど、今は違う。先程の堕落が嘘の様に、桜子はやる気に満ちている。

「にしても…あいつは何であんなヘタレなんだ?」

「えっ?あっ…」

跡部に言われて忍足に視線を向けると、他の部員と話している撫子に、タイミングが掴めず、話し掛けられなくて、一人で落ち込んでいた。
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