図書館できみと(サンプル)
■原作世界観で、大学生パロディです。
■紫苑とネズミは、まだ出会っていません。
■オリキャラ「桐野(きりの)」が登場します。オリキャラ等苦手な方はご注意ください。
地下階に下り立つ。暗いせいもあるのだろうか、心なしか、空気が重たくなったような気がする。
驚いたのは、ここが地下なのに、正面奥に大きな窓があったことだ。決して明るいとは言えないが、月明かりが窓から差し込んでいる。
普段、地下の書架を利用することなどないから知らなかったが、図書館は斜面か何かに沿って作られていたらしい。つまり、一階だと思っていたエントランスは実質二階で、地下だと思っていたここは、建物の裏側からすると一階に当たるということだ。
辺りを見回すが、月明かりの他に、照明のスイッチらしきものはない。仕方なくそのまま奥に向かって声をかけてみる。
「……桐野? いるのか?」
しん、とした地下。答える者はない。
「いない、のか」
この暗さでは、利用者がいるなどとは思えない。結局無駄足だったのかと、紫苑は肩を落とす。瞬間、ごそり、と何かが動いた微かな音を耳が捉えた。
「? ……ひっ、」
するり、と足の間を何かが通り抜けた。ぞわりと肌に鳥肌が立つ。だが、足の方を見ても何もない。
「なっ、何だ……? うわあっ、」
今度は足から肩へ、何か小さな塊が上り、そして駆け下りていった。得体の知れない何かの動きに、情けない声が出てしまう。すると。
くすっ。
微かな、本当に微かな笑い声がした。
「ま、まさか、幽霊じゃ……?」
呟くと、今度は少し間を置いて、吹き出したような笑い声。それがやんだかと思うと、正面奥の窓辺に人の影が現れた。
「あんたな、図書館を利用するならお静かにって、ママに教わらなかったのか?」
笑みを含んだ、それでいて凛と通る青年の声。その声は薄暗い図書館の地下室には、まったく不釣り合いなほどだった。窓を背にして立つその人の表情は、月明かりで逆光になっていてよく見えない。
「あっ……え?」
目をこらす。黒っぽい服にすらりとした体躯。灰色のストールを首に巻きつけている。
そしてその肩に、小さな生き物が二匹、反対側にもう一匹乗っていた。生き物だとわかったのは、小さな光る目が二つずつ組になって並んで、こちらを見つめていたからだ。
.....続きは本文にて。