NO.6

□I’s ―僕等―
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第二話
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夕日が地平線へと沈むのが、毎日段々と早くなっている気がする。
それに朝や夜は随分と冷え込むようにもなってきた。
まだ日中は暑い日もあり、けれど初秋の、ましてや夏のそれでは決してない。
気が付けば、秋も殆ど終わってしまったのだ。
NO.6にも、そしてここ西ブロックにも、本格的な冬が訪れようとしている。
温度を調節する設備が充実しているとはお世辞にも言えないこの地域で、冬を越すことは相当厳しいものになるのだろうと予想はするのだけれど。
しかし冬はきっと、この髪や全身を覆う痣を、服で隠すには今よりずっと好都合だろう。
自分でもまだ見慣れたとは言い切れない白い髪。身体に巻き付く蛇のような赤い痣。
カラン、という母と同名の少女を驚かせてしまったように、この姿はやはり、余りにも異質だ。
極端に目立つことだけは避けなければならない。いつ、NO.6の治安局にここに居ることがばれるとも限らない。
…いや、治安局を甘く見てはいけない。
もしかすると疾うの昔に見付かっているのかも知れない。
ただ、広い籠の中を自由に走り回されているだけなのかも知れなかった。
見付かっていないという保証はない。

けれど、ここで一日一日と過ごすうちに、もしかしてもう大丈夫なんじゃないかと、そう錯覚しそうになることがある。
それはとても、とても危険な錯覚だと思う。
しかし心は願うことをやめられず、そして今日のように、何気ないひと言の中に込められた現実に触れ、目が覚める。
明日も生きているなら、と。
イヌカシは皮肉を込めて笑って言った。当然と言えば当然のことだ。
死は、特別な事象ではない。
或る意味、日常的とも言える程に身近なもの。
死と生とは隣同士だ。
だがNO.6の中では、包み隠されていた「死」という現象。
死者は皆、美しい死相を作り上げられているのだという。
本来のそれでは決してない。有り得ない。皆が皆、全く同じ笑顔を浮かべて旅立ったのだと言い聞かされて。
しかし実際、それに触れる機会は殆どなかったから、いつしか片隅に追い遣られていた奇妙な違和感。
だから、生というものがどんなに簡単に死へと移行してしまうのか、本当の死相というものがどんなものなのか、それを改めて見詰めたのは、ここに、西ブロックに来てからのことだった。

ネズミは、他の奴には構うなと、自分が生き延びることを最優先させろといつも言うけれど、自分が働き掛けることで例え一瞬でも何かが好転するのなら。
偽善だと言われればそれまでなのだけれど、どうしてもこの気持ちを、考えを、捨て去ることが出来ないでいた。





2. 暗闇の中で
[自分という輪郭の感覚さえ失うような、そんな漆黒の中に潜んでいる何か]



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