NO.6

□I’s ―僕等―
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第四話
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余計な詮索はするべきではない。
知ることは、認めてしまうことはつまり、枷となる。
一度知ってしまったものを、ないものには出来ない。
知ってどうする。
いずれ失うならば、初めから求めようとするものではない。
一旦手にしたものを失う痛みよりも、初めから手に出来ない痛みの方がずっとマシだろう。
守りたいものなどない。
他人でしかない。
自分が生き延びること。それだけなのだと、そう言い切れるのは一体いつまでなのだろう。
知るべきではない。
こんなもどかしさの塊のような感情の名前など、知るべきではないのだ。
気付いた時点で負けていた。
けれど知る訳にはいかない。
認めてしまう訳にはいかない。
それでも、今更放り出すことさえ出来ない。
出て行けと口にするのは容易いだろう、しかし名もなき感情がその邪魔をする。
他愛もない会話を、収拾の付かない言い合いを、朗読を続けるあの声を、そして温かいベッドを。
欲して止まない、名もなき感情。
捨てなければならないのに。重荷でしかないのに。

戻れない。
知らなかった頃には戻れない。
知ったからこそ救われた。
だがその事実こそが、今現在を脅かす。
更なる感情の名前を知れと命令する。

いつまでおれは、抗えるだろうか?
この命令に。迫り来る死に。





4.君が居るから
[捨て置けない存在は枷でしかないのか、糧となり得るのか否か]


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