NO.6

□I’s ―僕等―
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第一話
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冬の日暮れは早い。
舞台を終えれば外は大抵真っ暗か、良くて夕方。
今日はどうやら良かった方らしい。
暗幕に覆われた舞台小屋を出て、最初に見たのは地平線にゆっくりと向かう夕日だった。
市場で僅かばかりの食料を手に入れ、それから真っ直ぐあの地下の「巣」に戻ったとしても、日は暮れるか。
今までならば行動パターンはそう決まっていた。
けれど今は、違う。
寄り道をしなければいけない予定が入っている。
しかもその寄り道は、行き先で酷く待たされたり、悪ければ手伝いをさせられたり、そして最初の頃は特に、行っても無駄足になったりしていた、今までなら絶対に赴かないような寄り道なのだ。
それでも自然と足が向かってしまうのは、何故だろう。


自分以外の者に構う余裕なんてない。
重要なのはただひとつ。
助け合って生きることなんかじゃない。
自分が生きるか、死ぬかだ。
死ねば終わりだ。
何ひとつ残らない。
何も変わるものなんてない。
自分という存在が欠落した穴は、この広すぎる世界の中で余りにも小さくて、そんなものはたった一度の瞬きと共に埋まり、いつしか忘れ去られてしまうものなのだ。
その程度だ。ただ一人の人間の存在なんて。
大したことじゃない。
世界にとっては、取るに足らないちっぽけなものでしかない。
この意識が途切れてしまった、その後にも、世界は変わらず続くだろう。
自分には何も残らないというのに、それは余りにも理不尽にすら思える。
けれどそれが道理だというなら、抗うしかないじゃないか。
無駄に命をなくしてしまわないように、抗うしかないじゃないか。
重要なのは、ただひとつ。
自分が生き残ること。
そうでなければ、何も変えることなんて出来ない。
現状に振り回されて終わる人生なんてごめんだ。
生きていること、それは死に対する最大の『抗い』に他ならない。
今死ぬ訳には、いかないから。
だから生きている。それだけのこと。




1.死ぬということ
[それは総ての終わりであり、そして総ての始まりでもある]


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