NO.6

□I’s ―僕等―
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第三話
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「おまえさんの負けだよ、ネズミ」

夜の闇の中で、イヌカシにそう言われた。
ああ、確かにそうなんだろう。
認めたくはない。
ないけれど、選択肢は既に闇に呑まれて消えた。
残された道はただひとつ。
残されたものはただひとつ。
この手の中にある訳でもなく、かといって無関係だと押し通すには近付きすぎた。
四年前に命を救われ、そして四年後の今、その借りはひとまず返した。
そこでお終いだと。
そこで終わらせていればよかったのか。
終わらせなかったばっかりに、一度抱え込んだ居候を、今更追い遣ってしまうことも出来ずに。
他人に構うな。
そのルールを破る日々が積み重ねられ、降り積もるのは焦燥ばかり。
そうだ元々失念していた。
いくら命の恩人だとしても、突き詰めれば結局は他人なのだと、そう判断出来なかったのは己の甘さか。

どうするんだ。
どうにも出来ない。

今更。
今更。
今更何が出来る。

認めるしかないのか。
おれは弱くなったのだと。
ルールを破って、油断の海に溺れた大馬鹿者なのだと。
そして後悔しながら死んでゆくのか。

ああ、いっそのこと。
いっそのこと、出逢わなければよかったのかも知れない。
仮に、もしもあのとき。
一軒隣の家に侵入していたとすれば、出逢うことすらなかっただろうに。
四年前のあの夜に、諦めろというあの声に、従ってさえいれば…、或いは。

たったひとつ、残された出口が更なる迷宮への入り口でしかないような、その手前で二の足を踏むしかないような、こんなどう仕様もない状況に、陥ることさえなかったのだろうに。





3. 守りたいもの
[この命、投げ出してでも守りたいものがあるならば、それは果たして幸せと言えるだろうか]


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