NO.6

□ポッキーの日
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チチッ。

小ネズミたちが膝に乗ってきた。
それぞれ後足で立ち上がってみせるのは、早くちょうだいと言っているようだ。

「ごめん。チョコレートはだめらしいんだ」
「チョコレートは、な」

ちら、とこちらを見たネズミが呟いた。

「どういうことだ?」
「チョコがついていない部分があるだろ。そこなら食べても問題ないさ」

ん? と首を傾げる。
さっき、食べさせないという話にならなかっただろうか。

「掌を返したような変わりようだな」
「変わってなんていないさ。おれは最初からチョコレートに関することしか言っていない」

そうだろうか。記憶を辿ってみる。

「ああ…、確かに」
「それに食い物の恨みは恐ろしいって言うからな」

ネズミは肩を竦めた。

「散らかさないように食べろよ。出入り禁止にされるわけにはいかないんでね」

食べろ、の言葉に小ネズミたちは敏感に反応を見せた。待ちきれない様子でせわしなく動き始める。
菓子の箱を開け、袋を破るとチョコレートの甘い香りがする。
袋の中で持ち手部分を1本ずつ慎重に折ると、3本の細いクッキーが出来上がった。
腰かけている出窓の縁は、ベンチ代わりの木でできている。
そこに3本を置いた途端、小ネズミたちは我先にと群がった。

「わ、そんなに慌てなくてもいいよ」

聞く耳を持たず、3匹はあっという間にそれぞれの獲物をくわえて走り去ってしまった。

「…すごい」
「いつものことさ」
「どこに行ったんだろう?」

暗がりに目を凝らすけれど小さな生き物たちの姿はどこにも見当たらない。

「さあね」

本のページを捲りながら、クスッとネズミが笑った。

「ま、あいつらは人の目につくような場所じゃ食べやしないさ」

その言い方からは自信が窺え、余裕さえ感じられる。

「きみには手に取るようにわかるんだな。まるで今も様子が見えているみたいだ」
「まさか。あんたはおれを超能力者か何かだとでも思ってるのかよ」
「舞台俳優なんだろう? ここで日がな本を読んでる姿しかぼくは知らないけど」

皮肉るように言うが、ネズミは答える代わりに口角を少し上げて笑ってみせただけだった。



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