NO.6

□ポッキーの日
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コピー本 図書館できみと番外編

〜ポッキーの日〜



それは冬も間近に迫り、日暮れがずいぶん早くなった11月のこと。

「で、今日はポッキーを食べる日らしいんだ」
「…あ、そう」
「きみも食べるだろう?」
「なんで」
「ぼく一人じゃ食べきれない」

図書館の地下階、窓辺に座るシルエットが2つ。

「チチッ」「チ」「チッ」

…プラス3つ。

「ほら、ハムレットもクラバットもツキヨも食べたいって言ってるじゃないか」
「…」
「あげてもいいか?」

葡萄色の小さな目が6つ、主人を見つめる。
しかしネズミは首を縦に振らなかった。
顔も上げず、窓から差し込む月明かりで読書を続けている。

「チョコレートはだめだ。カカオの成分がこいつらにとっては毒も同じだからな」

目を見開いた紫苑が息を呑み、本のページがめくられる音だけが静かに響いた。
ネズミは顔を上げようともしない。
思わず逸らした視線が葡萄色の6つの目とかち合う。
毒になるだなんて。
もう少しで取り返しのつかないことをしてしまうところだった。

「ごめん」

ぽつりと呟くと、小ネズミたちは首を傾げた。

「…なぜ謝ったんだ?」
「え」

紫苑は顔を上げる。
ネズミはまだ本に目を落としたままだった。

「それは…食べたらいけないものがあるって、知らなくて」

長い指がページを捲る。

「あんたは、食べさせてもいいかって聞いただけだ」

ふと視界が暗くなる。
月が雲の陰に隠れたのだろう。

「だから謝る必要なんてない。…違うか?」

表情まではっきりとは見えないけれど、ネズミは本から顔を上げてこちらを見ている。
声の調子から怒ってはいないのだとわかり、ほっとした。

「…ありがとう。きみの言う通りだ」
「謝罪も感謝の言葉も、使うべきときに使うんだな。親しみすぎた言葉からは重みがなくなるぜ」
「わかった。気をつけるよ」

月明かりが再び室内を照らしたとき、ネズミはまた読書に戻っていた。
それでもいい。
その横顔を見つめ、紫苑は微笑んだ。



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