NO.6
□Happy Halloween!
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「知らなかった」
ネズミは呟いた。
「何がだ?」
紫苑が顔を上げた気配がしたが、ネズミはそれを確かめることもせずに作業を続ける。
「聞いてなかった。あんたの実家がパン屋だったなんて」
「…そうだっけ」
断じて聞いていないが、ちらりとそちらを見れば、きょとんと首を傾げている紫苑と目が合ってしまった。
思わず視線を外すと、昨夜の紫苑との会話が脳裏をよぎった。
『手伝ってほしいことがあるんだ。ネズミ』
『明日、うちに来てほしい』
いつもの図書館で帰る間際、改まって何を言い出したのかと思えば。
「袋詰め、手伝ってくれてありがとう」
「別に。たまたま空いてただけだ」
いや、予定のなかったことを喜ばなかったと言えば嘘になる。
嘘にはなるが、そんなことは絶対に口には出さない。
「で、全部で100袋、17時までに必要なんだっけ?」
テーブルの上には何種類ものクッキーが並ぶ。
かぼちゃ、プレーン、チョコレートチップ、紅茶、レモン、オレンジピール、ココア、それからじっくりと焼き上げたメレンゲ。
香ばしいバターの香りがほんのりと漂う。
「あと68袋だよ」
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