NO.6

□残響
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「―委員、紫苑委員!」

はっ、と紫苑は顔を上げた。
目の前に、心配そうな顔のトーリが立っていた。
そうか、ここは、執務室だ。
書類が山積みになった机。
簡素な背もたれつきの椅子。
そこに腰掛け、紫苑は、思い出していた。昨夜の出来事を。
そうするうち、いつの間にかトーリが入室していたらしい。気が付かなかった。
トーリは部下の一人で、もっとも若年ながら、都市再建への意欲と、若い行動力を周りに買われていた。
それは紫苑も同じ思いではある。

「すみません、返事がなかったのですが失礼しました。大丈夫ですか、とても顔色が悪い」
「…ありがとう、大丈夫だよ」
「そんなふうには、見えません。これでも心配なんです、紫苑委員、ここのところお疲れだったじゃないですか」

周りに気配りの出来る青年は、なかなかいない。
トーリの、よく気が付く点、細やかな対応には定評がある。
一方、まだまだ視野が狭いことは多くあり、そこは彼の、今後の課題とも言えた。

「…実は、」

話し出そうとして、一瞬、考える。
それはこの場に相応しいのかどうか。
紫苑がちらりとトーリを見ると、心配が形を作ったような眼差しが、紫苑を見つめていた。

「…実は昨夜、小ネズミがね、死んでしまったんだ」
「…は?」
「大切な友達だったんだ。でも、人間とは一生の長さが違いすぎる。仕方のないことだったんだ」

ネズミがNO.6を去って、1年以上が過ぎた。
徐々に、緩やかに命を終えようとしていたツキヨ。
それが、たまたま、昨日であっただけ。
いつかはこんなときが来ると、わかっていた。
ただ、見送ってやれなかった、そのことが、唯一悔しい。

目を閉じる。
ツキヨの、鳴き声がまだ聞こえるような気がする。
ポケットの中から不意に、あの愛らしい体を覗かせるのではないか、そんな気さえしていた。
だから、次の瞬間、我が耳を疑った。


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