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□野薔薇
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目が覚めた。
XANXUSの手は、宙を掴もうとしたまま、何も掴めずぱたりと落ちた。
そして、思い出した。



スクアーロが昨日、いなくなってしまったことを。



「Sah ein Knab' ein Roslein stehn, Roslein auf der Heiden,…」

この歌は、スクアーロがよく口ずさんでいた歌だった。

(作詞者ゲーテ、作曲者シューベルト、題名…。)

「……野薔薇。」

全く歌なんか知らない、と言っていた男が、唯一ちゃんと歌える歌だった。
歌なんか歌い慣れていないかすれた声で、慣れない言語を口の中で転がしながら。
そんな声すら愛しくて、何度か歌ってもらった事もあった。



(嗚呼、それが別れの歌だったなんて!)



可愛そうな野中の薔薇。
乱暴な子供にその花はへし折られてしまった。

(出会わなければ、きった咲いていられたのだろうに。)

(お前だってきっと、)





生きていられたのだろうに。





「Sah ein Knab' ein Roslein stehn, Roslein auf der Heiden,…」

少年は、薔薇に心奪われて近付いた。
薔薇は、例え折られても忘れられないために少年を刺で傷つけた。



(忘れられるもんか、お前だけは幾等努力したって忘れられなかったのだから。)



(だってほら、)



夢を見てしまうくらい、幻を見てしまうくらい、お前の声を、歌を、熱を、手を、覚えてしまっているのだから。



(涙が溢れるよ、お前は拭いてくれないのか?)



薔薇を折って痛いのか、薔薇を折られて痛いのか。

どちらが薔薇だったのか、どちらが少年だったのか。

傷ついたのはどちらなのか。



どちらが惹かれたのか。



「Sah ein Knab' ein Roslein stehn, Roslein auf der Heiden,…」



野薔薇、ねえ君の声が聞こえる。



END 07.3.18.




〈後書き〉

フリーのくせに、しょっぼい小説ですみません…。
こんなんで良ければ、煮るなり焼くなり好きにしてくださって結構です!
2000hit、ありがとうございました!


  友崎懐


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………!!(声にならない)
ジャンルは違いますが、こんなに素敵なお話を見て、其の侭放っておけますでしょうか勿論無理でした!
懐ちゃんにはオフでも仲良くして頂いてます。今日直接頼み込んだら、苦笑しながらも転載許可してくれました。有難う御座いました!

闇内流樹



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