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□野薔薇
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結局、薔薇を手折ったのは誰だったんだろう?




     野薔薇



「Sah ein Knab' ein Roslein stehn, Roslein auf der Heiden,…」

XANXUSがうたた寝から目覚めたのは、この歌声が聞こえたからだった。

少しかすれた男の声で歌われる、聞き慣れない言語の歌。
ぼおっとする頭で、それでも声は聞き慣れたものであるということを確認する。瞬きを数回繰り返して、自分の今置かれている状況を把握する。

「…スクアーロ……。」

自然と声が喜びを含んで空気を震わせる。
目の端に捕えるは見慣れた銀色。
寝起きの目は膜がかかったようにピントが合ってくれず、しっかりとその影を捕えられないのがまどろっこしい。

「…あ、悪い…。起こしちまったか。」

言葉が申し訳ない、という響きをもってXANXUSの脳を揺らす。
それすら酷く心地好くって、XANXUSはもう一度目を軽く閉じた。

「…何だよ、また寝たか…?」

人の手が、優しくXANXUSの頭を撫でてくれた。くしゃくしゃと髪を撫でる手は、どこか楽しそうだった。

「…起きてる、バカ…。」

まだ寝惚けているXANXUSの声を聞いた人物が苦笑したのが、雰囲気で伝わってきた。

「悪い悪い、まだ眠かったか?」

「…別に…。もう、起きなきゃ、とは、…思ってる…。」

むにゃむにゃとはっきりしない声で喋るXANXUSの耳に、さっきの歌が響いてくる。

「Sah ein Knab' ein Roslein stehn, Roslein auf der Heiden,…」

歌声は所々かすれていて、普段歌い慣れていないことを教えてくれる。
そんな歌でも、XANXUSにとっては子守唄の様にとろとろと意識を溶かしてしまう。



酷く、気だるかった。

ずぶずぶと深い処に沈んで行く感覚。

歌声が心地好かった。

このままずっと、目を閉じていたかった。





「Roslein,Roslein,Roslein rot,Roslein auf der Heiden…」



そこで、ぷつりと歌声が途切れてしまった。



瞼を開きたくても、重くて開いてはくれなかった。
なぜだか怖くて、体が震えた。
そして、額に何か暖かくて柔らかな感触がした。しかし、それが何かを認識する前に、熱は離れていってしまった。

「…………や、…。」

離れてほしくなくて、XANXUSは切ない声を出した。
手が、何かを掴もうとさ迷う。
それに答えてくれたのか、もう一度だけ暖かさが戻った。

その熱は、耳元に移動した。



空気が、震えた。





「XANXUS…。XANXUS、愛してる…XANXUS…。」





熱が、消えた。




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