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□紅(あか)と白
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最近。
アトベはおれと、一緒に帰ってくれなくなった。





















「ジロー! 途中で寝てんじゃねーぞ」
「…アトベは? かえんないの?」
おれ待つよ? そう言おうとして口を開く。
向日に腕を引かれ、ずるずると部室の外へと引っ張られながら。
部誌に記入を続ける視線が、上げられ、一瞬、交わる。
と、跡部は少し困った様に斜め下を見た。
何か言い難い理由で口籠もるときの、彼…というか、人の癖。

(ああ…そういうコト)

ちらり、窓際に目をやれば、予想通りの。
「何でもない。じゃあおれかえるね?」
「…あ、あぁ、」
パタリ、手を離せば重みで勝手に閉まってゆくだけの存在、薄いドアが空間を分かつ。

此方と、向こうとの。


「侑ちゃんと、か」
「…ジロー? 何か言ったか?」
前に居た、宍戸がくるりと振り返り、恐らくは何の気無しに問うたけれど。
「ウウン。べつに?」
にっこりと笑んでみせれば、
「…そうか?」
数秒後にはまた、前を行く向日と会話を始める。




最近、アトベは……




「…跡部、」
ええの? 一緒に帰らんでも。
そう問い掛ける為に彼の名を呼び、そうして其処で、何て事を聞こうとしていたのかと気付くや否や、言葉を呑んだ。
不自然に途切れた呼び掛けに、訝しむ様な視線を上げた跡部は、戸惑う様に目線を逸らした忍足を見、其の研ぎ澄まされた観察眼で、何を言わんとしていたのかを、恐らく、読み取る。
「……まだ、部誌書けてねぇからな」
当たり障りの無い、応えを返す跡部に、
「…そ、か」
また、当たり障りの無い言葉を返す事しか出来ない。

今までは、一緒に帰っていたという慈郎に、何処か後ろめたい気持ちなんてものもあったけれど。
でも、此れはきっと嫉妬。
嫌味、という名の、言葉。





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