テニスの王子様のモノカキさんに30のお題

□その手の先に…
1ページ/3ページ







青。

此の空の湛える青の、今にも吸い込まれてしまいそうな其れを眺める。
雲ひとつ無い其れ。
唯有るものは、青。
だが一色ではない、其れ。
天頂へと昇るに連れ、段々と其の色味は深くなってゆく。
青でもない、空色でもない。
ひとつの色として決めきってしまう事など到底出来ない。
其れが中途半端だというのなら、其れこそが美しいのだと、そう思う。










青空華










「また此処におったん?」

時折吹き荒ぶ風に煽られたシャツがはためく、音といえばほぼ其れだけ。
校庭や周りに響く音も、此処からは遠くて。
静寂に包まれていた空間を不意に途切れさせたのは、少し錆び付いた金属音を響かせる扉。否、正しくは其の扉を開けた男。

こんな風に、殆ど学校内では聞き慣れない関西のイントネーションで言葉を紡ぐ男といえば、思い当たるのは、ひとり。
先程呟かれた其の言葉はどうやら独り言の様で、小さく――其れでも耳に届くには充分な大きさだったが――、風に流され、消えた。


敢えて其方に目を遣る必要も無い、そう判断して、コンクリートの床に背を付け、頭の下で両手を組んだ姿勢の侭。

唯眺めるのは青。
雲ひとつ無い、其れ。


軋んだ音がもう一度聞こえ、扉を閉めた気配が此の屋上に入って来た事を示す。
其れは迷う事無く近付いて来ると、極自然な身のこなしで、隣に腰を下ろした。

舞い戻る、静寂。

だが其れは今や先程までの其れでは無い。
幾ら無反応に徹していても、少なからず此の心臓は早鐘を打ち始め、其れが自分でもはっきりと判るのが腹立たしい。たかがひとり、何かと煩い此の男が隣に居るというだけで。

「…何の用だ」
ならば此方から此の凪を打ち破る他は無いだろう。重たい口を開いた。
「やー…、特に…此れと言っては何も無いねんけど」
「なら失せろ」
「嫌」
何処までも掴めない男に軽い苛立ちすら覚え、
「…そうかよ。じゃあな」
「其れはあかん。…自分、此処がえぇんと違うん?」
起き上がろうと動かした身体は、其の前に出された左手に制される。
「…何がしたいんだ?」
「やから…何も」
「はっ、何寝惚けた事言ってやがる。そんなもの…、」
俺と同じじゃねぇかよ。
そんな台詞が喉まで込み上げ、止めた。馬鹿馬鹿しい。
唯何もしたく無かった。此処に来た理由なんて唯其れだけ。其れを一々告げてやる必要なんて何処にある?

目の前の腕を振り払う様に身体を起こし、離れる。唯少しでも、其処から――。
其れでも此の屋上から立ち去らなかったのは、此の青にほんの少しでも未練なんてものがあったからなのだろうか。
後ろで未だ座った侭の男に背を向け、フェンスに手を掛けた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ