テニスの王子様のモノカキさんに30のお題

□鷲掴み
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鷲掴み





そう、あれはほんの数日前の話だ。

部活の後、部誌を書いたり其の他諸々。気付けば部室で二人切りになっていた。
ああ、勿論偶然だ。
取り留めのない会話を交わしながら、着替えを済ませて振り向いた。
そうしたら、何故だか知らないが、急に真剣な顔をしたそいつに告白された。
ちょっと待て、そう言って自分は質そうとした。
好いた惚れたの話じゃない、そもそもお前も俺も男だろう。
何を言い出すんだと鼻で笑ってやった。
其れなのに、奴は引かなかったのだ。
其れでも俺はお前の事が好きなんやと、喉の奥から絞り出してきた。
其の何とも言い難い悲痛な表情に、何故だか此方まで胸の辺りが苦しくなる。

跡部は?
俺の事、嫌いなん?

そう言われて、ああ嫌いだと素直に返せる奴が居るか馬鹿。
否、素直もクソもない。
確かに、部活で、擦れ違う廊下で、奴の事を目で追う自分には気付いていた。
何故なのかは判らない。
けれど自然と、視線が引き付けられてしまうのだ。
そして時たま不意に奴と目が合っては、驚きながらも微笑んでみせる奴から慌てて目を逸らす。
慌てる必要なんか何処にもないのに、だ。
クソ。
何なんだ。調子が狂う。

嫌…いじゃ、ねェよ。

そう答えた。そう答えるしかねえじゃねぇか。
そうしたら、奴は目を見開いて固まった。

ほんまに?

おい待て、何をカン違いしてやがる。俺は好きだなんてひと言も言っちゃいない。
だが舞い上がった奴はいつにも増して厄介だった。

跡部…。

ッちょ、待ちやがれ!!
だから何をカン違いしてやがるんだテメェは。
まずい。非常にまずかった。
奴が求めんとする流れを悟り、俺は一気に血の気が引いた。

ふざけるな!

叫んで横を擦り抜ける、其の腕を強い力で掴まれた。

…怖いん?

其れが挑発だと、勿論判っていた筈なのに。
何もかも見透かすかのような漆黒の瞳に、身体の中を射抜かれた。

あン?
テメェ何言ってやがる。

怖いモノなんてねェよ。
知らずそう言葉が口をついていた。
そうだ、たかがキスひとつ。どうでも良いと思っていた。
自分は其れしきの事で揺らぐような人間ではないし、其れしきの、単なる皮膚と皮膚とが触れ合うだけの行為、擦れ違った誰かと肩が触れるのと変わらない。
だから其の程度で、どうにかなるようなモノではないと。なのに。



「…ックソ、」

右手の甲で唇を拭って舌打ちをした。
まだ、あのときの感触が其処に残っているような気がしてならない。
思いがけずしっとりとしていて、柔らかで、意外と薄くて。掠めた吐息が蘇る。
錯覚以外の何物でもない。馬鹿げている。
思い出したくなどない。
なのに忘れられないだなんてふざけている。
此の苛立ちの正体が判らない。判らなかったし、何処かで判りたくないと思っていたのかも知れない。
ああ、正解は後者だろう。燻っていた、まだ形さえ判らない此の感情を、奴は。
そうひと息に、鷲掴みにしていったんだ。




−了



+++++++++++++++++++++

物凄く久し振りのお題更新です。
書き方忘れてるなぁと苦い笑みで迎えてやって下さい。
読んで下さり有難う御座いました!



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