テニスの王子様のモノカキさんに30のお題

□手を繋ぐ
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「何や寒いし、部室ん中で温めたってくれる?」
「はァ? 訳判んねぇ事言ってんじゃねーよ」
ドアを開けた侭動きを止めていた跡部の背に追い付き、今は真白のマフラーで隠されている其の華奢な首を後ろから抱き込むようにするが、大した力も入れていなかった為呆気無く其の手は振り払われる。
「そんなに独りで帰りてぇってのかテメェは。あぁ?」
「冗談やて」
「テメェの冗談は冗談に聞こえねぇ」
言いながら、跡部は外へ。
「何やの其れ…」
「さっさと出ろ。閉められねぇだろうが」
鍵を持つ彼の白い指が見る間に赤く染まる。

「はいはい…」
壁に手を伸ばし電気を消して、部室を後にした。










白雪の舞う中。
ひとつ、ふたつ、舞い降りたものが服や髪を白く変えてゆく。





「…忍足、部誌寄越せ」
管理棟の前で、跡部が徐に口を開いた。
「…何で?」
「此の俺様が提出して来てやるって言ってんだよ。有り難く思いな?」
そう言って忍足の手から部誌を奪い取ると、管理棟の扉に手を掛ける。其の足取りは、異様に、…軽い。
「ちょ…、景吾!」
振り向いた彼はとても綺麗な、けれど不敵な笑みを浮かべて。


「せいぜい凍えてな? バァカ」
言い残して、硝子製の扉の向こうに消えた。
枠以外は硝子が使用されている為、中に居る跡部が廊下を曲がってしまうまでを見届けざるを得ない…という。

「〜〜〜〜……っ、」

部室の中で思った事を訂正したくなってくる。確かに待たせはしたが、其れでも。
…こんな所に放置しなくてもと思う。「意気揚々」とは正にあんな様子かもしれない…。





諦めて息を吐き、両手をコートのポケットに入れた。
息が、白い。


上を見上げると、絶え間無く空から降り頻る結晶のカタマリ。

地面や木や、色々な物の上に落ちては段々と其の存在を主張してゆく。
唯身体に降る其れだけは、刹那の時を経てゆっくりと溶けて。


消えて、しまう。



冷たさも構わずに、思わず伸ばした手に舞い降りた其の雪も、また。





白く儚き、雪の、華。

真白に蒼を湛えた彼も、儚く白く、雪のように。

何時か此の手をふわりと掠めて、消えてしまうときが来るのだろうか。



伸ばした手をそっと握り締め、空を仰いだ。
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