テニスの王子様のモノカキさんに30のお題

□体温
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肩に手を掛けた侭言うと忍足の腕がやんわりと細腰を抱いてきて、
「…来て?」
そう言われたけれど無視を決め、何もしないでいれば、
「しゃあないお姫さんやね…、」
ゆるりと笑んだ口元に誘われるかの様に目を閉じると、其の侭引き寄せられて、柔らかな其れが己の其れにそぅと重なる。

「……ん、…ッ」
次第に深くなってゆく其の行為に上手く呼吸をし損ね、肩を押し戻すも全くと言って良い程効果は無く、何時の間にか髪に差し入れられた手が更に其れを阻む。
「っや…、おし、」
此の男は何故かキスが上手くて、気が付けば何時も主導権は此方には無い。


漸く、解放された瞳は少し濡れていたかもしれない。
突っぱねる様に伸ばす力を加え続けていた両腕は己の意識とは関係無く忍足と自分との間に畳まれ、其の侭短い呼吸を繰り返していると、突然シャツの内側に入って来たひやりとした掌に過剰な程に肩がびくりと震えた。
だが今度ははっきりと、手を添えた其の両肩を押し返し、言う。

「…悪い。そんな気分じゃない」
相手は驚いた様に手を止め、そうして、御免な? と瞳を覗き込まれれば例え其のふたつの黒曜石に反省の色が全く窺われなくとも、もう何も言えなくなる事を知っていて、敢えて其れをする。


「…狡ぃんだよ、テメーは」
「なん?」
クスリと笑われて余り良い気はしなかったが、
「…ほら、機嫌直し?」
「……馬鹿」
幼い子供にする様に抱き込まれ、頭をぽんぽんと指先で撫でられるのはまるであやされているかの様。
其れでもさほど悪い気はしないなんて、寧ろ心地良いだなんて、自分は相当可笑しいのかもしれない。



かも、しれないが、時折。

無性に、此の体温に触れていたいと思うときが有る。



何も言わなくて良い。
何もしてくれなくて良い。

唯、微笑んでそっと温もりを与えてくれさえすれば其れで良い。


こんな事を、考える自分はやはり我が儘なのだろうか。





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